(2010年3月8日)
(主張) 高等学校の授業料無償化」から、朝鮮学校を除外させてはならない
柴野貞夫時事問題研究会
○国際人権規約「社会権規約13条」は、人種民族の違いを問わず、高等教育における教育の機会均等の権利と教育費の無償化を規定している。
○日本国家は、30年以上にわたり、その実施に対する「留保の権利を」主張してきた。加盟国160か国の中で、未実施国は、国民総生産世界第2位の「日本国」と、同150位の「マダガスカル国」だけである。
○それは、日本国家が長年にわたり、日本国民と日本に定住する諸民族の教育の機会均等の権利を蹂躙してきた証拠である。
○「高校無償化」から、朝鮮学校を排除しようとする鳩山首相と中山(拉致担当相)の動きは、外国籍子弟の教育権を、民族差別によって蹂躙しようとする国家犯罪であり、国際人権規約の差別的履行と言う蛮行である。
それは、国際人権規約を踏みにじる国家犯罪である。
朝鮮学校に対する、国庫による如何なる支援もおこなわず、その上、「無償化」から除外することは、日本国家の民族排外主義的退廃である。
(1) 外交の行き詰まりを、朝鮮人子弟に転嫁しようとする鳩山政権
今週中にも、衆議院に上程されようとしている「高校無償化法案」の対象から、朝鮮学校だけを排除しようとする動きが、鳩山内閣に浮上している。
(2月18日)中井国家公安委員長兼拉致問題担当相が、「拉致問題」が解決しない状況で、朝鮮学校を「無償化の対象としないように努めている」と言明し、鳩山も(2月25日)「その考えは一つある」と同調したからだ。驚くべきことに、日本国家権力の中枢に座るこの二人は、(「未解決の拉致問題」なる)日本の、朝鮮共和国に対する敵対的外交交渉から来る両国関係改善の行き詰まりの責任を、朝鮮学校に通う朝鮮民族の子供たちに転嫁しようとしているのである。
「高校無償化法案」は、日本で教育を受ける、あらゆる民族の子弟に教育の機会均等の権利を保障するものであって、日本国家と或る国との関係を理由として、その国の子供の権利だけを奪うと言う暴挙は許されるものではない。それは、国民の目に、国家の外交的破綻の責任が、(一つの民族に対する新しい差別の醸成を通して)、あたかも、その民族の子供たちに存在するかのように見せかける、陰湿な国家犯罪である。それは、朝鮮民族に対する更に新しい差別を、国家によって生み出し、日本国民の中に焚きつけるものに他ならない。
(2) 国際人権規約を、30年間にわたり無視してきた日本国家
そもそも、この「高校無償化法案」は、高校授業料の無償化を約束した民主党の衆院選挙公約であるが、それは、1979年に日本が加盟したにも拘らず、今まで自民党政権が一貫して「留保する権利」を持続して来た国際人権規約の中の「A規約・社会権規約13条」(中等・高校教育の無償化条項)の実現を、国際社会と国内のあらゆる教育団体や人権組織、教育の機会均等を国家の責務として要求する国民の戦いに、答えざるを得なかった結果でもある。
同条項の加盟国160カ国中、未実施国は(09年5月現在)日本を含め僅か2カ国に過ぎないが、日本以外の一国とは、GNP(円換算で)150位に過ぎない極貧国家のマダガスカルである。国内総生産世界第2位の日本が、恥ずべきことに30年有余にわたり、日本国民と日本に在住する諸民族に対する、教育の機会均等の諸権利を蹂躙してきた事実が、今回の「高校教育無償化」法案を巡る動きによって、逆に一層、明らかとなったのである。
同条約13項は次のように規定する。
「この規約の締約国は、教育についてのすべての者の権利を認める。」「締約国は、・・諸国民の間及び人種的、種族的または宗教的集団の間の理解、寛容及び友好を促進する事(等を)可能にすべきことに同意する。」そして、「高等教育は、すべての適当な方法により、特に無償教育の漸新的な導入により、能力に応じ、全てのものに対して均等に機会が与えられるものとする。」と。
鳩山も、この規約に沿って、両院での施政方針演説(1月29日)で「すべての意志ある若者が、教育を受けられるよう高校の実質無償化を開始します。」と、公約の実現を言明したはずである。
鳩山内閣の「高校無償化法案」は、当初から公・私立高校と同時に「高校課程に類する各種高校を対象とする」と明記していた。「インターナショナルスクール」等の多国籍の子弟が通う学校や、ブラジル人学校、当然のこととして朝鮮学校や韓国学校も、文部科学省の予算に計上されている。公立高校の無償化・私立高校への支援とともに、各種高校である朝鮮学校も同じ扱いを受けることを、予算措置(概算要求)も含め、決定したと報じられて来たのだ。
それは、朝鮮民族に限らず、日本に在住、或いは永住する、国籍と民族の異なる人々が、日本人とともに、人種や民族の違いを排斥するのではなく,互いにその言語と文化を尊重し合い、助け会って生きていく上で、至極当然の決定であった。
(3) 日本の学習指導要領に準拠した朝鮮学校の教育
とりわけ歴史的経緯から、日本に多数永住する事となった朝鮮民族が、その子弟に母国の言語と文化を継承させ、系統的に学ばせるための教育の場である朝鮮学校を、他と区別する事なく、この法の下で権利を均等に享受することを保証するのは、日本国家の義務であり責任でもあるからだ。
日帝植民地支配とその政策の結果、朝鮮の農村を追われ日本へ遊民化せざるを得ず、過酷な労働の末にやむなく日本で終戦を迎えたり、或いは、日帝の国策企業の労働力として強制連行され、奴隷労働を強いられた後日本に永住する事となった数十万人の朝鮮人の、その子弟が通う朝鮮学校が、その法にもとづく権利を均等に享受する事から排除される如何なる理由もないはずだ。朝鮮民族に対するその歴史的責任から言っても、中井と鳩山の妄言は許されるものではない。
日帝が敗北した直後の1946年当時、朝鮮民族はその子弟に、日本帝国主義によって奪われた(1939)母国の言語・ハングルを取り戻そうと、自力で朝鮮民族の学校を全国600ヶ所に設立した。しかし、日本政府と日本占領下米国軍政は、一貫して朝鮮民族の学校設立に反対し敵対してきた。しかし、現在も日本政府は、すべての朝鮮学校が母国語である朝鮮語教育と自国の歴史教育以外、日本の学習指導要領に準拠した教科書を使用し、その卒業生の受験資格を認めない大学は国公立をはじめとしてほとんど存在しないにもかかわらず、他の公・私学と区別し「各種高校」と位置付け、財政的助成を拒み続けてきた。
これは、国際人権条約の「高校教育の無償化条項」に対する、30有余にわたる「留保する権利の行使」と言う日本国家による教育権の蹂躙行為が同時に、民族差別も含む二重の国家犯罪であったことを物語っている。
(4) 「高校無償化」法案を、「北」叩きに利用する民主党
(2世代,3世代と言わず、今や4世代目の)朝鮮学校卒業生たちは、日本や諸外国の大学を卒業し、日本国内で、医者、弁護士として活躍し、国公立・私学の諸大学で教授として日本人の子弟を教えている例は挙げれば枚挙にいとまない。彼らは、日本社会の中で必要欠くべからざる(日本資本主義社会の)タクスペイヤーでもあることを、国家の権力者どもは自覚しなければならない。
また、朝鮮学校に通う在日朝鮮人子弟は、何も朝鮮共和国籍と限らないのは周知の事実である。排外的民族差別主義者・中山(拉致担当相)が意図する「北朝鮮叩き」の狙いの対象は、すべての朝鮮学校の約半数を占める韓国籍子弟、日本人子弟、他の諸国民の子供たちにも同時に及ぶことをご存じか?在日朝鮮人の家庭と言うのは、1950〜53の朝鮮戦争を通して、アメリカ帝国主義と日本国家による朝鮮半島の分断固定化政策の中で、在日朝鮮人の家庭・親族間の間も同様に、南・北国籍の違いがあり、まして通う民族学校に南北の違いはあまりない。
もし、鳩山と中山、そして民主党が、国際人権規約を否定し、民族排外主義に駆られ、等しく全ての民族の教育を受ける権利を否定する「高校無償化法案における朝鮮人学校の除外」を強行するとすれば、日本国は、日清・日露戦争を通して強行した朝鮮の植民地支配の蛮行から100年目を迎えても尚、歴史の教訓から学ぶものは一つもなかったと言うことを暴露するだけだ。
(民衆闘争報道・高校授業料無償化から、朝鮮学校を排除させるな!2010年3月9日)
3月5日、pm7・30から、京都壬生にあるラ・ボール京都で、「在日朝鮮人京都府民族教育対策委員会、学校法人京都朝鮮学園、朝鮮学校オモニ会京都府連絡会」主催による、緊急抗議集会が行われた。
京都在住の朝鮮人同胞を中心に、それを支援する日本人も含め、約600余名が、鳩山内閣による、高校教育無償化での朝鮮高校排除の動きに抗議し、怒りをもって駆け付けた。(日本人を除いて)挨拶と報告はすべて朝鮮語で行われた。
初めに挨拶に立った京都朝鮮学校の孫智正理事長は、「高校教育の無償化法案」は、本来の趣旨からいっても朝鮮学校を除外するものではない。この動きは、共和国に対する敵対主義と民族排外主義を、教育の場に持ち込もうとする間違った狙いがある。朝鮮学校を含むすべての外国人学校に無償化制度を適用する事を求めた。
京都府議会副議長の角替豊氏は、政府の朝鮮学校に対する差別政策を日本人が許してはならないとしながら、戦後日本の復興に在日朝鮮人の力が大きく寄与してきた事実と、京都府民でもある在日朝鮮人子弟の民族教育の必要性を訴え、共に闘っていく決意を述べた。
2月24日,25日のジュネーブで開かれた国連人種差別撤廃委員会に、日本のNGA代表として傍聴出席した弁護士・江頭節子氏から、「高校無償化法案」で、鳩山首相が朝鮮学校を排除する発言を行ったことに対し、各委員から日本政府代表に批判が集中した事実が報告された。日本は、欧州のような「反差別法」を制定すべきとの発言があったことも紹介され、鳩山内閣の差別政策を撤回させる戦いへの連帯が表明された。
京都朝鮮中高級学校 高級部2年生の鄭栄成君、在日本朝鮮京都府青年商工会ウリハッキョ支援委員長・張一鋪さん、京都朝鮮中高級学校オモニ会会長は、それぞれ、朝鮮人の学生生徒は、日本人生徒と同じように夢や希望をもって学校に通い、学業に励んでいること、自分たちの先輩も日本の社会の中で日本人と同じように活躍しているにも拘らず、なぜ自分たちだけが差別されなければならないのかを訴え、日本政府が、高校無償化の朝鮮学校排除を絶対にしないように切実な訴えが相次いだ。
<集会は、次の要望書を採択した>
内閣大臣 鳩山由紀夫様
文部科学大臣 川端達夫様
朝鮮学校にも高校無償化制度の適用を求める要望書
四月から実施に向けて国会で論じられている「高校無償化」制度の対象から朝鮮学校を外す案が浮上し、総理大臣もそのような発言をなさったという報道に、私たちはとても大きな衝撃と不安を感じています。
文部科学省は昨秋、財務省に提出した概算要求では、各種学校である外国人学校も無償化の対象として試算していることが報道によって明らかになりました。
「高校と同等」みなされるすべての学校を高校無償化すると表明された方針が、実施直前に成って特定の学校のみを排除すると転換されるのか、私たちは、全く理解できません。
国交がないことや、拉致、核問題などに関連させ、その対象から外すべきだとする意見や主張があると聞いていますが、私たちはこの法案の趣旨は国連人権規約の、なんびとにも教育の機会を保障しようという理念を具体化したものであると考えています。
万が一、子供が自己の民族の教育を受ける権利を、外交問題、政治問題の交渉の材料にするようなことになれば、「人」を大事にするという現政府の理念に反することになります。
朝鮮学校の教育水準を確認できないという意見が政府・政党の中にあるとも聞いていますが、朝鮮学校の教育内容やカリキュラム、教科書は公開しています。大学受験資格も認定されていますし、スポーツ大会にも公式参加しているなどの事実から、朝鮮学校の教育が一般の学校と変わりない水準であることは、多くの人が認めています。
また、朝鮮学校の保護者達は、日本人と同じく納税の義務を果たしているにも拘らず、朝鮮学校に対する国庫からの助成は全くなく、地方自治体からの補助金も日本の私立学校の三分の一にも満たない事に対し、日弁連は、二度にわたり勧告をだしています。
そして、最近の国連人種差別撤廃委員会でも、無償化の措置から朝鮮学校を除外することは、民族差別に当たるという指摘が多数出ています。
在日朝鮮人問題の経緯や、子供の基本的人権としての学ぶ権利、そして朝鮮学校の実態から、このたびのこの法案の対象から除外される事は、国際視点からも許されないと考えます。
私たちは、法案の本来の趣旨にのっとり朝鮮学校を「高校無償化」の対象から除外しないように、強く要望します。
(2010 年3月5日)
「高校無償化」からの朝鮮学校外しを許さない京都同胞緊急集会 参加者一同 」
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