(シリーズ4)
労働法を否定する人身売買法、「労働者派遣法」を、即時廃棄せよ
● 「連合」は、労働者の非正規職化を根絶するため、参議院において「法の改正論議」ではなく、「派遣法」 廃棄の議決をすることを民主党にせまれ
@ 政府・日経連は、派遣法の正当化を通して労働法の全面解体を狙っている。
昨年12月25日、「労働者派遣法」に関して再検討を行ってきた、労働政策審議会・労働力需給制度部会(厚生大臣諮問機関)は、中間発表で、現行派遣法(2003年改正)の改正をめぐって「労使委員間の意見に根本的相違があり」答申の見送りを決めたと公表した。この4年間、製造業への業種拡大により派遣労働者は、企業の非正規職として飛躍的に増大し、正規職と同一の労働に従いながら派遣会社による中間搾取によって二分の一以下の賃金しか払われず、雇い止めによる一方的解雇に甘んじ、劣悪な労働条件の中で常に過労死の危険の中での働きを強いられてきたが、派遣企業と受けいれ企業、両者の共謀的な不法行為も後を絶たず、その人身売買さながらの実態が明らかになるにつれ、世論の批判のなかで、この法の再検討をするという触れ込みだった。
しかし、日経連と経営側委員は、世論の批判に対し、反対に、この部会で「派遣法」をさらに、派遣会社と受け入れ会社にとって有利に改正する場にしようと画策していたのは次の点で明らかだ。
中間報告で、労使委員間の「意見の根本的相違」とは、「労働者派遣が、原則自由であるか、本来限定的なものであるかの基本的違いに起因する。制度の根本的検討なしに個別の仕組みの議論を続けても有意義な結論に到達できない。」(中間報告)といって、労働者委員の指摘した現行法の、労働者の権利侵害に関わる問題点の法としての整備を拒否し、再検討を、すべて見送るとした。
日本の労働諸法は、雇用を、企業の支配者である経営者の力から、弱い立場の労働者の働く権利を擁護するために、直接・常用を原則としているが、『労働者派遣法』は、受け入れ先企業の間接雇用を容認することによって、労働者を常に経営者の一方的支配に晒らし派遣労働者の権利侵害が常態化してきたのだ。労働者派遣を「原則自由」と規定することは、この法から、労働者のあらゆる権利保護を否定することになる。「本来限定的である」と言うことは、1986年にこの反労働法を強行した日経連とその執権政府の弁明であると同時に、法の中に労働者の権利保護を主張する根拠となるものである。
A 労働法を、私的利益のための『国際市場競争』の道具にする日経連
今、経営者側が「原則自由」と改めて主張する根拠は、2004年の製造業種解禁でほぼ原則自由とした流れを確認し、「労働者派遣法」の正当化を通して、日本の労働法全体から労働者の権利保護を簒奪し、日本の労働法を、日経連と日本資本家階級の帝国主義的国際市場競争に従属させ、労働者階級の抵抗を排除し、無権利状態に貶め支配する意図に在ることは、あきらかだ。
この権力の諮問機関の部会は、今日まで、日本資本家階級の私的利益のために、激化する海外市場競争で生き残るための国際競争力を労働のコストに絞るため、労働法を正面から突破して、労働者階級の人権の解体のうえに「非正規職労働者」を日本の雇用構造の軸に据えるための検討組織として機能してきた。常に資本の利害を反映させ、労働側委員は、組織の「民主主義的正統性」に対する花として添えられてきただけだ。2006年、「ホワイトカラーエグゼンプション」という長時間労働のただ働きと、8時間労働制の終焉を狙った法制を、労働側委員の反対にも拘らず報告にもりこんだ事を見てもあきらかだ。連合の労働者委員は、今でこそ世論の批判と労働者の圧力と、組織自体の存亡が問われることによって、政府と日経連の労働政策を批判するが、1989年日本最大の労働者の組合となった「連合」の歴史は、日本資本家階級との理念的共有と労働者の権利侵害の容認、資本の労働政策をその内部から支えてきたことに要約される。「労働者派遣法」と非正規職の増大に対する「連合」の歴史責任は重い。非正規職と言う日経連の雇用政策が、正規職の権利と日本の労働法全体の解体に繋がることを無視した責任を総括すべきであろう。
B 憲法と労働法は、中間搾取の雇用形態を許していない
「鶏より早く起き、猫より遅く寝て、仕事の負担は馬より多いが、彼の作業場と食堂は、豚小屋より汚い」。これは、中国・香港に於ける移住労働者の非正規労働の実態について、韓国民主労総等の主催で行われた「非正規国際シンポジューム」での、香港の専門家の告発である。(2005・11・15 チャムセサン)http://media.jinbo.net/news/view.php?board=news&id=34460
これは、多かれ少なかれ、日雇い派遣を含む日本の非正規労働者1700万人、及び失業者280万人の、我が日本の働く民衆の現実の姿と二重写しとなる。昨年、NHKが放映した「ワーキングプワー」は、昼夜二重のパート労働を掛け持ちせずには生きてゆけない母子家庭を支える女性労働者、空き缶拾いでしか収入を確保できない老齢者夫婦、路上やネットカフェをねぐらとして、日雇い労働で懸命に生き延びる若者たちが、医療保険を含む社会保障による国民の生存権の擁護と救済の責任を放棄した国家と、労働力の再生産(生命の維持)さえまま為らぬ過酷な労働条件と低賃金を踏み台にして未曾有の私的利益を上げる日本資本家階級(日経連)によって、生存の危機と貧困の連鎖から抜け出ることが出来ない悲惨な現実を報じていた。
日本資本家階級(日経連)は、国家権力による1986以降の、度重なる法的庇護によって、「労働力の規制緩和」、即ち、資本の生産点において、労働の諸権利を擁護する砦としての「労働法」の解体の上に、資本家階級による一方的な労働者支配を実現する、新たな「雇用構造」を執拗に追求してきた。「労働者派遣法」がそれである。
日本国憲法は、その第二十七条において「労働の権利・義務、労働条件の基準、児童酷使の禁止」、同じく第二十八条において「労働者の団結権・団体交渉権その他の団体行動権」を規定し、それに基き、労働三法(労働基準法・労働組合法・労働関係調整法)と職業安定法を初めとする他の労働諸法によって、資本の一方的支配から労働者の権利を守ろうとしているのである。
中でも、労使の雇用関係のなかで、労働基準法第6条(中間搾取の排除)は、「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」と定め、それを職業安定法第四十四条において、「何人も次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない」とその運用を具体的に規定した。
それは、「労働者の派遣」という行為(事業)自体が、労働者の中間搾取(二重搾取)に他ならず、例外的に認める場合でも、労働供給先の資本家(労働力を実際に使用する側)が、労働者を直接指揮下に置く場合は直接雇用として、あらゆる法的責任から逃げることを許さないことを取り決めたものである。日本国憲法とそれを根拠とする労働諸法規は、資本家が、労働者を使用する場合、間接雇用を禁止し直接雇用を義務付けることによって、資本家階級の労働者に対する最低の義務を法の枠で課し、生産点で支配者として権力を持つ彼等から、労働者の権利を防衛しようとするものである。
C 「労働者派遣法」は、資本による二重搾取、人身売買法である。派遣会社のピンはね率を規制しない政府は、搾取の共犯者だ
しかし「労働者派遣法」は、日本の労働者を、あらゆる「労働法無き世界」に引きずり出し、資本のやりたい放題の不法行為に晒している。この制度は他でもなく、日本の資本家階級による、労働と言う商品の「生産点」での搾取と「流通」過程での搾取と言う、二重の搾取を生み出した非人間的な“人身売買”そのものである。
1989年7月、労働市場の規制緩和として「専門分野に限定された」ごく例外的にしか認められなかったはずの職業紹介事業(16業種)は、1999年12月の新労働者派遣法では、製造業務、建設、港湾運送、警備、医療を除外するだけでその他をほぼ全面的に(26業種に拡大)容認した。法の表現も「原則禁止、例外適用」は、「原則自由、例外禁止」へと向かい、逆に禁止項目が「例外的」少数となり、2004年には、製造業種まで自由化された。これによって、二重搾取にあえぐ非正規労働者は、2007年末に1700万人に達したのではないかと推算される。5700万賃金労働者の30lを超えるのである。
2007年11月27日国会厚生労働委員会で日本共産党小池議員は、東京板橋の(株)エム・クルーが、労働者を派遣労働の禁止業種である建設現場へ送り込み、請負先から12380円の賃金を受けながら4680円をピンはねし、更に飯場代1800円、安全協力費500円を差し引き、労働者の手元に5400円しか残らないと言う悲惨な実例を明らかにしたが、これはほんの一例にすぎない。何兆円市場と言われる派遣業界のこの中間搾取(ピンはね)に対して、国家と法は如何なる手立ても打っていない。国家は、それを示す如何なる統計資料も発表していない。国家は、天皇制軍国主義時代の「たこ部屋」と変わらぬこの不法行為を、日経連と共に「労働形態の自由な選択」として拡大深化させようとするのか。
D 派遣会社に「同一労働、差別賃金、差別待遇」をセールスさせる「派遣法」
派遣労働者の「同一労働、差別待遇」と言う「メリット」を売り込む派遣企業は、正規職の二分の一の賃金、各種社会保険の除外、中途解約や更新拒否による間接的な解雇の自由を、受け入れ企業に約束し、彼らと結託して、日本の労働法を蹂躙し働く民衆の人身売買を法の庇護の下で行っているのだ。「同一労働同一賃金」ではなく、「同一労働、差別賃金」を自己の企業の売り込みのセールスポイントに置く「労働者派遣企業」とは一体なにものなのだ。またその売込みを「労働市場の規制改革」「新しい雇用形態」として競って受けいれてきた日本の資本家階級は、市民社会のモラルを説く口先のブルジョアの衿持さえ、もはや無いほど堕落したのか。
それは、「労働者派遣法」そのものが、日本の資本家階級と国家の、資本主義世界に対する国際公約(ILO、100号条約)としての『同一労働・同一賃金』を否定した『同一労働・差別賃金』を理念とする、「剥き出しの階級支配の法」であることを雄弁に物語っている。「労働者派遣法」そのものの持つ、中間搾取企業の容認と言う不法性を、改革と言いくるめて平気な日本の資本家どもは、もはや異臭が立ち込めるくらい腐敗している。「同一労働、同一賃金」の原則を、全く無視した「労働者派遣法」は、正規、不正規を問わず、労働者階級の全体の人権を貶める悪法であり、「改正の論議」でなく「廃止」に向けての行動を起こさねば為らない。
同一労働に差別賃金を持ち込む事は、労働者派遣業が日本のあらゆる企業の中に不正規職を拡大させ、正規職に取って代えられていく基本的な保障となっているのだ。少なくとも欧州の主要な国家が、労働者派遣を容認するとき、『同一労働・同一賃金』ならびに、「同一待遇」を前提としている事が、非正規職が拡大しない理由であることがそれを示している。
日本資本主義を代表する最大企業、トヨタの労働力は、系列を含め実に80lが、人権を蹂躙された非正規職によって支えられている事実は、日本資本主義の危機を表していると同時に、それを許容してきた日本の労働運動の危機でもあることを明らかにしている。
E 断える事なき違法行為は、「派遣法」自体の違法性によって生まれている
今、非正規労働者の送り手(派遣企業)と、受け入れ企業は一体となって、ともに既存の法の、抜け穴だらけの労働の保護をうたった枠さえ、確信犯的、常習的に破り続けている、「多様な働き方を妨げる法律の障害を取り除くべきだ」という日経連会長・御手洗は、自らが会長を務めるキャノン(株)において、派遣社員の「偽装請負」が発覚すると、逆に法が悪いと主張しその見直しを主張する始末だ。派遣労働は、労働者を資本の苛斂誅求な攻撃の嵐と、無法の世界に晒している。平均年収160万以下と言う低賃金、正規職がもつ企業内福祉からも排除され、多くが社会・医療保険を受益出来ず、過労死を生む過酷な労働条件、首切り自由の不安定な身分を放置することは、国家と資本家階級による人間の生命を軽んじる無法極まる犯罪行為である。かれらは、国際市場競争と新自由主義時代を、権利なき労働者の常態的雇用構造(非正規職労働者の構造化)で乗り切ろうとしている。
2007年1月厚生省諮問機関、労働政策審議会労働条件分科会委員にして、派遣会社ザ・アール社長の奥谷禮子は、雑誌、週間「東洋経済」で「過労死は、自己管理が出来なかった人間の能力の問題であり、能力に差があるのだから格差社会は当然だ。」と、資本の犠牲となった労働者のいのちを冒涜し、自分たちの恥ずべき人身奴隷売買商売を合理化したが、これは、日経連が2007年1月発表した御手洗ビジョン「希望の国日本」の「労働市場の改革」の項で、「格差是正の枠組みや、正規・非正規の区別に捉われるな」と言う日経連資本家階級の労働者階級の人権に対する宣戦布告と機を一にしている。
今年に入っても、派遣企業の違法行為は絶えることは無い。佐川グループ、西部グループの二重派遣、派遣大手グッドウイルによる二重派遣、禁止されている港湾運送業務への派遣。多数の労働者を、家畜を運ぶようにトラックの荷台に積み込み、派遣先に運ぶ行為は、道交法55条違反と言う以上の、資本の道義腿廃のみすぼらしい品性を物語っている。彼ら(派遣業者)の違法行為は、違法業種や二重派遣と言ったあからさまな違法行為だけではない、派遣労働者の不利益とトラブルを「防止」するための「ルール」なるものも、受けいれ企業はあらゆる手段で有名無実としている。職種による派遣期間の制限や、受けいれ企業の「直接雇用義務」は、企業の工夫次第で破ることが可能となっている。
F「連合」は、民主党に参議院における、「労働者派遣法」の即時廃棄と、非正規労働者の直接雇用決議を要求せよ
この日本のブルーカラーを中心とする、中間搾取の人身売買業の横行は、正規職の非正規職化の促進と同時に、当然、非正規ホワイトカラー労働者の増大を生み出している。1998年の労働基準法改正は、新裁量労働制により8時間労働制を無意味にした。また昨年サラリーマン階層の猛反対で中断し、今またあたらしい装いで「ホワイトカラーエグゼプション制」の導入が予定されている。資本による残業労働の収奪が図られていることに注意を向けなければならない。
正規労働者は、明日は我が身である。ブルーカラーもホワイトカラーも非正規労働者と共に隊伍を組み、なりふり構わぬ日経連・資本家階級の労働権蹂躙の象徴であり労働法の全面的改悪に道を開く「労働者派遣法」の即時無条件の廃棄に向かって、戦いの火の手を上げよう。参議院は、「連合」が支える民主党と、労働者の権利擁護の味方である共産党・社民党によって過半数を占めているではないか。民主党が労働者の味方なのか、日経連の味方なのかも、白日の下に曝け出されるであろう。(続)
<参考サイト>
<資本と労働>@、A、Bを参照
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