(最新の世界情勢を分析する - 2008年6月26日)
韓国「蝋燭示威闘争(キャンドルデモ)」は、
「食の安全を守る戦い」の枠を、越える事ができるのか?
5月24日から始まり、6月10日の100万の市民のデモを経て、なお現在も継続される、ソウルを中心とする韓国民衆の米国産牛肉輸入に反対する“キャンドル示威”は、就任100日に過ぎなかったイ・ミョンパク政権を震え上がらせている。ソウル市庁前広場を中心に、展開されているデモが、「国民の食の安全」と言う一点に於いて、イ・ミョンパク資本家政権の下で恩恵を受けているかもしれない韓国中産階級やネクタイ市民と、日本と同様、非正規職労働者の奴隷労働の上に成り立つ強奪的利潤を貪る資本家と企業を正当化する、ハンナラ政権に如何なる利益も享受出来ない働く民衆との、結果としての統一戦線であることは間違いない。
1987年6月抗争が、軍事独裁政治に対する市民的自由と、大統領直選制に象徴される議会制民主主義を要求する学生と中産階級であるネクタイ市民の、歴史に残る“市民運動の勝利”には違いないが、軍事独裁体制であろうが、議会民主主義体制であろうが、常に資本のくびきと戦わざるを得ない労働者階級の勝利ではなかった。その後の労働者の9月闘争が、労働者の権利を掲げて資本家階級と対峙したとき、6月の市民運動は、彼等だけの勝利を味わって街頭から姿を消していた。2008年のキャンドル街頭示威が、単に「食の安全のための政策変更」を求める中産階級市民の要求と、イ・ミョンパクの「韓米牛肉交渉」が、「韓米FTA」に象徴される、世界帝国主義の市場分割戦争に組み込まれた韓国資本家階級の新自由主義路線にもとずく労働者支配との全面的闘争と考える働く民衆の、資本と政権そのものへの戦いとが混在している。
ソウル広場での市民の自由討論や、東亜、中央、朝鮮等の保守言論のなかに、「青瓦台(大統領官邸)」に向かう街頭デモや、民主労総のゼネスト予定を、「キャンドルデモから逸脱するもの」とする主張がでているが、一体全体、彼等はいかなる基準によって、何処から何処へ行くことが「逸脱する」ことになると言うのだ。これこそ、階級的力学が生み出すお馴染みの風景である。階級間のベクトルの中で中間階級はその居場所を決めなければならないのだ。
軍事独裁体制への抵抗と、1987年の6月抗争の中から生まれた「ハンギョレ紙」は、その民主主義的言論機関として、国家権力による、「市民」的権利に対する侵害を監視糾弾し、「市民」の側からの言論を追及してきたことは確かである。しかし、あくまでも階級的利害を貫く資本家執権政府の政策と衝突せざるを得ない働く民衆と労働者階級の立場よりも、「進歩と中道」と言う曖昧な社会層(中間層)の立場を代表しながら、時に働く民衆の戦いを批判してきたことに注意する必要が在る。我々は、彼等の主張を、韓国を知る資料として提供をしているに過ぎない。(別稿に、キャンドル示威とイ政権に対するハンギョレ紙の論説がある)
国民の怒涛のような抗議行動に背を向け、青瓦台に隠れていたイ・ミョンパク大統領が、6月19日、国民の前にやっと姿を現し、欺瞞に溢れた記者会見を開いた。かれは、政権発足後すぐ韓米牛肉交渉の妥結を急いだ理由を、「米国産牛肉の輸入を拒み続けば、韓米FTA(自由貿易協定)の年内妥結が出来ないと考えたからだ」「韓米FTAが妥結されたら34万件の良質な雇用が生まれ、国内総生産(GDP)も6l以上増えるのだ。大統領としてこんな絶好の機会を逃したくなかった。」(ソウル・19日、ヨンハップ通信)と、主張した。
大きなビジネスチャンスをキャンドルデモがぶち壊したと言うわけだ。国民所得を倍にすると言う100日まえの選挙公約も、民衆の抗議行動のおかげで立ち消えたと言わんばかりだ。イ大統領が主張する「34万件の良質な雇用」とは、それが、自動車・ハイテク産業を中心とする工業製品を作る企業の労働者の、非正規雇用や労働三権の侵害と言う悪質な労働実態を、『輸出』の為と称して正当化することを前提とすることを隠蔽した言葉に過ぎない。「いくら至急に解決が求められる懸案だろうと、国民が結果をどのように受け入れるかを好く見るべきだった、此の点に対して痛切に反省している」(同、ヨンハップ)と、韓米交渉をうまく国民に押し付けられなかったことを「反省」しているのだ。
その証拠に、キャンドル示威の圧力の下、7日間に亘って行われてきた日韓牛肉追加交渉の結果に対する、21日の政府発表は、米国業者団体の自主規制による禁止と、検疫主権を曖昧にしたものに過ぎなかった。
民主労総(全国民主労働組合総連盟)の主力部隊、全国金属労働組合(自動車メーカー主体)は、20日争議調整を申請、25〜26日スト賛否投票を行い、建設労組、保険医療労組等は、公営事業の自由化や、大運河反対を同時に掲げストライキに入ると宣言している。
韓国民衆の闘いは、「食の安全」の枠を遥かに超え、イ・ミョンパク政権との全面対決に向かう方向性を秘めていると考えられるのだ。(文責 柴野)
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