六カ国協議を通して見る東北アジアの展望 (その4)
六者協議の停滞を生む、米国の義務不履行を糾弾する
@ 米国は何故、北朝鮮が「核申告をしなかった」と嘘をついたのか
朝鮮半島の非核化をめぐる「六カ国協議」に於いて、参加各国の履行義務を取り決めた2007年10月3日のいわゆる「10・3合意」が、その期限である2007年12月31日を迎えても、一部主要国によって履行されず今日に至っている異常な事態が生まれている。それは、日本の商業新聞各社やマスコミが垂れ流す『十分な核申告をしない北朝鮮』のことではない。六者会談で合意された朝鮮半島非核化に向けての「二段階措置」で、「合意義務事項」を「行動対行動」という<同時行動>で誠実に履行しているのは、あらゆる経過を検証するとき、疑いも無く北朝鮮である。
「10・3合意」の持つ一定の曖昧さが、米国政権内の路線対立による政策のブレを、米国が北朝鮮に対する「合意履行」のハードルを、一方的に上げ下げするという事態を許していることが、米国と北韓の主張の「食い違い」となって現れているが、10・3合意義務事項に対する北朝鮮の第二段階措置の履行を、不十分とする根拠はどこにも無い。
2008年1月2日、米国ホワイトハウス報道官が北の核申告問題について、「朝鮮側から連絡は無く、期限を守らない態度に懐疑的」だと発言した。しかし、2008年1月4日、北朝鮮外務省スポークスマンは、六者会談による「10・3合意の履行」に関して次のように談話を発表している。
(2007年末までに)、<核施設の無力化に関連した技術的に可能な範囲の作業>と<核申告に関する一連の措置>を行っている。」「我々はすでに昨年11月に核申告書を作成しており、その内容は、米国に通報済みだ。米国側が申告書の内容をもう少し協議しようと言うので協議も十分行った。米国側がウラン濃縮“疑惑”を提起したことに関し、我々は、米国側の要請通りに輸入アルミニウム管が利用された一部軍事施設まで特例的に参観させ、サンプルも提供し、問題のアルミニウム管がウラン濃縮とは無関係であることも明らかにした。」と。ウラン濃縮に関連したこの米国の要求は、12月上旬、ヒル国務次官の訪朝で実現していることが明らかになっている。
1月2日の米国の報道官の発言は、2007年内中に、北朝鮮の10・3合意義務事項である、第二段階措置の義務履行に対して、同様に実行しなければならない米国の履行義務を、実行しなかったことに対する根拠の無い弁明であることが暴露されたのである。
A誰が<行動対行動>の原則を守っていないのか
「10・3合意義務事項」が示す、<核施設の無力化>と<核申告に関する一連の措置>という、「第二段階の措置」の実行という北側の履行義務は、すでに2007年12月31日までに完了しているのだ。現在100日間の予定で計画されている使用済み燃料棒の抜き取り作業が進行中であるが、それは、「最終段階の措置」である。米国と他の六カ国協議当事者は、北の「第二段階の措置」の義務履行の実行に対して、<行動対行動>の同時行動、つまり各国としての義務履行を行ったのだろうか?
北朝鮮は同じ談話で、「米国を初めとする他の参加国が自分の義務を履行していない・・他の参加国の義務事項である朝鮮に対する重油とエネルギー関連設備、及び資材搬入は、半分も実現できていない状態だ。特に米国は<テロ支援国>指定解除、<敵性国貿易法>適用解除の自己の義務を履行していない」と指摘している。したがって、このような状況では、更なる核施設の無力化の作業は、「<不可避的に一部調節>せざるを得ない」と延べているが、一方で、北朝鮮の「朝鮮半島非核化の意思は確固としている。」と明言している。
朝鮮政府機関紙<民主朝鮮>1月22日付「選択の権利と自由は、米国だけにあるのではない」(当サイト別掲)で「最近朝鮮半島非核化実現のための二段階事業で、一定の問題点が提議されたことに対して言えば、それはあくまでも、六者会談関係諸国が、我々の合意履行措置と速度に歩調を合わすことが出来ずに生まれた問題だ」「朝鮮半島の非核化過程は、六者が<行動対行動>の原則で各自、自身が持つ義務事項を誠実に履行するとき前進できることに為ると言う、特殊な状況にある。我々が、同時行動の原則が朝鮮半島の非核化過程の生命だと主張する理由がここにある。」との指摘は、<行動対行動>の原則を各国が守ることが朝鮮半島非核化実現の保障であり、それをいまだ果たさない、主として米国へのいらだちが示されている。
B<北は核の申告をしなかった>と言う、嘘のブッシュ政権の談話を口実に、米国の対北強硬派が、東北アジアでの戦争を煽っている
米国が、2007年31日までに、<テロ支援国>指定解除や<敵性国貿易法>適用解除の義務を履行しなかった根拠とした、北朝鮮が「核プログラムの申告期限を守らなかったから」と言う1月2日のホワイトハウスの欺瞞的談話は、その情報量に於いて圧倒する、米国や日本を含む世界の商業ジャーナリズムとマスメヂアによって、六者会談をめぐる米朝関係停滞の原因をなす既成<事実>にまでなり、まことしあかに、今も垂れ流されている。
しかし、このような米国の、自身の10・3合意義務事項の不履行に対する「言い訳」は、北朝鮮の誠実な義務履行の事実を否定し、あたかも北朝鮮が、対話路線と朝鮮半島非核化の破壊者であると批判するようなものであり、これは、ブッシュ政権内部の強硬派、対北朝鮮経済的軍事的圧力派、即ち対話路線ではなく北朝鮮の体制崩壊を画策する好戦派を勇気憑かせ、対話路線の破壊に向かう策動を生み出している。
1月17日、ブッシュ自身が任命した北朝鮮人権特使・ジェイ・レプコウイッツは、米国企業研究所(AEI)主催ノシンポジュウムで、「六者会談で中国と韓国は、北朝鮮に対し“意味のある”圧力を加えていない」「そのあらゆる協議は“人権問題”を経済支援、安保問題に皆確固と連携せよ」と、六者会談そのものの精神と、プロセスの破壊を主張した。同時に、大統領選挙で、かっての反共軍政与党ハンナラが勝利した韓国との北韓包囲網を期待し、「人権問題で北韓当局に断固とものを言え」と、自己の世界の諸民族と市民に対する虐殺と、殺戮拷問は不問にしてはっぱをかけた。かれは、朝鮮半島の非核化と東北アジアの平和構築にはもとより興味は無い。「北韓体制の“解放”を目的にする‘建設的包容政策’という新しい対北政策を検討せよ」と言うに至っては、朝鮮半島に対する政治的、軍事的侵略と、北朝鮮そのものの圧殺の意図をあからさまにしたものと言うべきであろう。(別掲、ハンギョレ紙「ライス、レプコウイッツ特使を公開非難」の中の、ハンギョレ紙「米国北韓特使“核問題人権・経済支援と連携しなければ”」を参照)これは、ネオコンと軍需産業と、米帝国主義の利害を代表するブッシュ政権の抜きがたい性格の一面を、はっきりと示したものであると言うこともできる。
Cライス国務長官は、「北の解放を目的に 対北政策を検討せよ」と主張したレプコウイッツ人権特使を、「どんな権限もない者」と罵倒したが・・・
しかし、米国務長官コンドリーザ・ライスは、1月22日、直ちにこの人権特使の発言を、「六者会談がどのように推移しているかも分からず、何の権限も無いものの発言」と罵倒し、「私は大統領の立場を理解して現況を把握している」と北朝鮮にシグナルを送った。(別掲 ハンギョレ「ライス、レコウイッツ特使を公開非難」参照)同時に、同じ日1月22日、米国国務省・対テロ担当デル・デイリー調整官は、記者会見で「北朝鮮は、米国務省のテロ支援国名簿から削除される為の法律的基準を満たしている。」「日本人拉致問題もテロ支援国名簿から削除する障害物にはならない。」と、根拠の無い北朝鮮への、<合意不履行>と<人権問題>に基く強硬派の跋扈をまえに、事実上北朝鮮の主張の正当性を認めざるを得なかったのである。
1月23日労働新聞は、朝鮮の所謂「人権問題」をとりあげる米国にその資格があるのかと批判している。(別掲 労働新聞「最大の人権犯罪を問題視しなければならない」)
1月22日、北朝鮮は、政府機関紙「民主新聞」で、米国の10・3合意の不履行を強く非難し、その背後に『米国の体質的悪習』があると指摘、ネオコン、ボルトン(前国連大使)のW/Sジャーナル誌の寄稿論文を「事態の本質を歪曲、・・核問題の平和的解決を妨害し、共和国への政治的軍事的圧殺を狙っている。」しかし「政治的圧力と軍事的対決方式では何も手に入れるものがないと言うこと米国の強硬保守勢力らは、はっきりと知る必要がある。」とし「強硬政策には、いつでも超強硬で対応してきた。」と、ブッシュ政府の異なる動きを区別しつつも、断固たる態度で臨むことを示唆していることに、注意を向けなければならない。北朝鮮の「選択の権利と自由は、米国だけにあるのではない」と言う、言葉の意味を、米国の権力者は、理解しているだろうか?
D朝鮮半島と東北アジアでの、ブッシュと日米帝国主義者の侵略策動を許してはならない
これまでの、米朝間の動きは、朝鮮半島の未来と平和構築に明るい兆しを刻んでいた。ブッシュのキム・ジョンイル総書記に対する親書や、2月ニューヨークフィルのピョンヤン公演の決定などは、12月末までに、米国は北朝鮮の合意義務事項の履行に対応して、当然自らの義務も履行するものと、考えられていた。
その中で、「朝鮮半島の非核化」とは直接関係の無い、一方的ないわゆる<人権問題>のハードルを持ち出したり、事態の推移を歪曲して、韓日との反共「対圧迫共助体制」で「六カ国協議」の全ての作業過程を否定、経済的軍事的圧力で北朝鮮と対決しようとする自国内の「強硬派」の動きを抑えられず、自らの外交的約束義務を果たすことを躊躇し、右顧左眄する超大国(米国)の動きが、東北アジアと朝鮮半島の平和構築、朝鮮民族の平和的統一にとって暗い影を落としている。
それは、06年10月9日の北核実験によって、ブッシュ政権が選択せざるを得なかった対北朝鮮対話路線を批判する、これら政権内と共和党の一部強硬派との、単なる調整にすぎないのか、あるいは、相変わらず戦争を生業(なりわい)とする戦争国家米国行政府(ブッシュ政権)が、朝鮮半島でも対話路線を投げ捨て彼ら(強硬派)と共に、軍事的冒険に繋がる経済的軍事的圧力路線に回帰しようと意図しているのかは、まだ分からない。日本の福田政権は、2・25を基点とする右傾化する韓国の新政府と、ブッシュ政権の右往左往を前にして、いまだ右翼安倍政権の対北政策を犯罪的に踏襲するだけだ。
米国は、イランに於ける核疑惑が、自国の情報機関によって否定され、イラン侵略戦争の口実を失い軍事的政治的余力が生み出されていることと、韓国におけるハンナラの勝利が、ブッシュ政権の対北朝鮮政策に欲心を生むことがあるとしたら、朝鮮人民と東北アジアの平和にたいする犯罪行為である。それを拒む戦いこそ日本の民衆の歴史的な責務である。テロ特措法によるインド洋での米軍に対する給油活動と、今も継続している中東での空輸活動は、紛れも無い米帝国主義者の戦争に、日本が「参戦」をした事を意味していると知るべきである。戦争は国家が或る日突然、宣戦布告をすることで始まるのではない。戦争を準備する権力の、日常的に行われ国民の諸権利に対する一つ一つの攻撃からすでに始まっている。朝鮮半島における平和構築は日本の平和憲法を守りぬく戦いと堅く結びついているのだ。
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