(韓国ネットニュースPRESSIAN 国際ニュース2011年4月20日)http://www.pressian.com/article/article.asp?article_num=50110420075028&Section=05
福島原発事故−最悪の場合、東京都は‘無人地帯’となる(その1)
[インタビュー] 小出裕章、京都大学原子炉実験所・助教
2011年3月11日、日本東北地方の地震以後、わずか4日の間に、福島第一原子力発電所では二回にわたり水素爆発が続き、原因のわからない爆発と火災が相次いだ。この期間、日本政府とメディアは、周辺地域の放射能汚染の程度としては「直ちには害はない」と強調した。そうした日本政府は、事故から一週間たった3月7日、発電所から20〜30kmの地域住民に屋内避難を訴えた。一方で、日本政府は、「自然界で1年の間受ける放射線量と比較すれば、全く心配する水準でない」と言い、住民の安心を誘導した。その後、日本のテレビでは、次第に原子力発電所のニュースが減り、商業広告とバラエティー番組が溢れ出始めた。
事故から1カ月目になる日、日本政府の記者会見があった。福島原子力発電所の事故がチェルノブイリ事故と同じ<レべル7>と言った。誰が聞いても、その意味をすっきりと把握しにくい、‘計画避難区域’、‘緊急時避難準備区域’という区域を決めたかと思うと、30km以上離れている地域住民に半強制的に長期避難を指示したのだ。その村は、数日前に、チェルノブイリ専門家という医師が派遣され、「笑わない人が放射線にやられる」と冗談を言い、「放射能の汚染程度は全く問題がないから、安心しても良い」と、住民に講演をした場所だった。
こんな状況で政府とテレビを信頼できないと言う日本人が、最近では増えている。政府やメディア(特にTV)が嘘をついているのか、それとも真実を伝達する方法が下手だからなのか、私には理解できない。この点はこれ以上、重要でないと思える。明らかなことは、彼らがどんな言葉を語っても、首をかしげて信頼性を疑心する人々が増えていると言う事実だ。
明らかな嘘は、信頼を失う。どうせ確然と露見する嘘を信頼を持って聞くと言うのは理屈に合わないからだ。信頼喪失は相手方の曖昧さと不分明な態度から始まる。現在、日本政府とメディア、「危険を売って稼いだ金」で成長した電力会社と(国家に買われた)御用学者がそうだ。
平穏なる日常が継続される時は、何が真実であって、何が嘘であるか、人々はあまり関心を持たない。
真実と嘘がもつれて灰色となっていても、人生にあまり混乱に陥らないからだ。しかし、有時事、或いは極限状況に突き当れば、人々は眠っていた目を急に開け始める。何故なら、(自分の)人生自体が選択の岐路に置かれるからだ。
この様に一度目覚め始めた‘覚醒の目’は、深く、早く進行する。そしてこの様な経験を蓄積してきた人類は、次の様に宣言する。「真実は必ず現れる事となっている。」
小出裕章氏は、京都大学・原子炉実験研究所の研究員(助教)で、原子力工学者だ。彼が40年近く原子力専門家として大学に従事してきたのに、どうして教授の席を得ることが出来なかったかは、インタビューをしっかりと読んでみれば推測する事が出来るであろう。原子力ルネッサンスと称されるぐらい、原子力推進派が勢力を得て待遇される風土の中で、彼はただ一度の妥協もなく、40年近く原子力の危険性を知らせる事に力を注いできた。
或る人は、まかり間違えば彼は原子力界の‘ドンキホーテ’となる所だったと表現した。それなのに今でも、「放射能のない世の中が、あまねく広がったらよかった」と願った。
去る4月11日、京都大学原子力実験所で彼に会った。1時間近い彼とのインタビューが進む間、5〜7分間隔で電話のベルが鳴った。日本各地で、インタビューや講演を要請される電話だった。「今こそ日本社会が、先生を最も必要とする様だ」と話をするや、彼は小さいが断固たる声で語った。「むしろ、私を必要とする事が起こらなかった方が、良かったのです。」
彼が‘死の灰’を説明する時、ちょうど彼の肩越しの窓の外に、白い桜が降りしきる雪の様に舞い散り始めた。
福島発電所、最悪の事態一歩手前
●<チョン・ウンイ>:福島第一原子力発電所は、いまどんな状況ですか?
<小出>:今は、長期的な事を念頭に置いて何かを話す状況ではない。現在進行している状況をどのようにして止めるか、これか゜最も急を要することだ。
現在、原子炉は崩壊している(途中)か、或いは既に崩壊されている。破局まで至ってはいないが、破局に至らず止めることが出来る様に、すべての能力を傾けている途中だと考える。△写真 (チョン・ウンイ)小出裕章 京都大学原子力実験研究所研究員(助教)
原子炉というものは、ウラニウムを核分裂させて、そこで発生する熱を利用し、電気を作り出す装置だ。ウラニウムが燃えて出る熱を水に移して、その水を蒸発させ、蒸気でタービンを回す様にする構造だ。ウラニウムの核分裂が継続している時、同じ水を循環させ熱を奪わなければ、原子炉が故障を引き起こす事になる。
特に、ウラニウムが核分裂反応を引き起こさない状態だとしても、水を循環させなければならない。どうしてかと言えば、ウラニウムの核分裂が起これば、核分裂の生成物、即ち‘死の灰’と称される物質が出てくるからだ。この核分裂の生成物は自ら発熱する性質を持っている。
今回の様な地震を受ける事になれば、原子炉の中に制御棒を入れて、ウラニウムの核分裂を停止させるようになっている。これは比較的簡単な作業で、今回この事は成功したと考えている。しかし、福島原子炉の中には大量の核分裂生成物が入っている為に、それ自体が発熱を続けているのだ。その熱を冷却しなければ、原子炉がとけ出す事となる。これは原子炉の宿命だ。
今回の事故は、地震だけでなく、津波の襲撃を受けてポンプが水没し、あらゆる電源が遮断し、水を循環させる事も出来ない事態となった。原子炉内では核分裂生成物が、継続して熱を発生させていた為に、原子炉がとけてしまったようだ。
ただ、電源が遮断された後、東京電力は消防ポンプ車を持ってきて、原子炉内に水を注入する作業を始めた。その結果、原子炉全体がとけ出す事態は、辛うじて食い止めた状況だと見る。原子炉全体がとけてしまえば、今のような状況では終わらない。もっと深刻な程度に放射能が出て、汚染が拡大する。そう成らない様に、どうしてでも食い止めようとする作業を始めたのだ。
●<チョン・ウンイ>:原子炉がとけだし爆発する状況と言うのは、具体的にどんな事ですか?
<小出>:原子炉内部には、直径1cm、長さが4mになる長い棒が入っている。家庭で洗濯物を干すとき使用する物干し竿と似ている。その棒の内部は空になっており、そこにウラニウムを焼いて(化学処理して)固体化させたペレット(pellet)と言う粒子が入っている。直径1cm、高さ1cm程度の大きさで、棒の空いた空間に400個程度がいっぱい詰まっている。これを、我々は燃料棒と言う。この燃料棒は、ジルコニウムと言う金属で造られる。このジルコニウムが、きちんと(まともに)冷却されず、850度を越える事となれば、周囲の水と反応を引き起こし始める。そして、反応時に水素が発生する。これは、発熱反応のため、一度反応を始めれば温度がだんだんと周辺にも伝達され、更に強い反応が進行する。原子炉内で起きたこの反応で、大量の水素が発生し、どの時点でかそれが爆発し、原子炉を覆っていた外壁建物を飛ばしてしまったのだ。
燃料棒は、原子炉圧力容器と言う鋼鉄で作ったった容器の中に入っている。厚みが16cm程度ある度外れた容器であるが、容器の一部が既に損傷している。その容器の中に水素が漏出したのだ。圧力容器は、原子炉格納容器と言う、もっと大きい容器の中に入っている。どんどん熱が発生するために冷却水を注入したが、それによって蒸気が発生した。格納容器の設計耐圧は4気圧なのに、格納容器内部は8気圧を越え、いつ損傷してもおかしくはない状態となった。
このとき、東京電力は他には方法がないと判断し、格納容器の中に入っていた蒸気と水素、放射能をバブルを開き外へ放り出す作業をした。一部水素が格納容器を取り囲んでいた建物に漏出し、爆発が起こったものと推測している。
しかし、実はその他にも、いろんな漏出可能な経路は有り得る。格納容器の一番上の部分の蓋はボルトで締められている。設計内圧を飛び越えた8気圧状態だったので、そのボルトを締めた部分から漏出したという説もある。いずれにしても、水素が漏出し爆発することで、建物が飛ばされてしまったと言うことだ。
東京電力が話す「燃料棒の70%が損傷された」という意味は、このジルコニウムという燃料棒の被覆管が既に70%程度、水と反応を引き起こしたと言う事だ。
しかし、このジルコニウムの金属の中には、先ほども申し上げたように、ウラニウムを焼いて固体化させた粒子形態のペレットが入っている。これらは、温度が2,800度程度にならなければとける事はない。私は、ジルコニウム被覆管が反応を起こし、その形態がほとんど消えたと推測している。東京電力は70%と言うが、そうかも知れないが。この金属が消えている状態であれば、その中に詰めている粒子形態の固体ウラニウムは、粉々に散らばって落ちているだろう。しかし、それがすべてとけた状態ではないと見る。下に積もっている一部はとけているはずだ。
それは、福島原子力発電所敷地内でプルトニウムが検出されたと言う事実で知ることが出来る。プルトニウムは、揮発性が無いばかりでなく、水にもほとんど溶けない性質を持っている。なのに、それが検出されたと言うことは、ウラニウム・ペレット自体がとけていると仮定しなければ説明が出来ない。一部ペレットがとけたことは確実だが、全体のペレットがとけたてしまったとは思えない。
もし、全体のペレットがとけてしまったら、私が憂慮して来た最悪のシナリオに向う事となるだろう。水蒸気爆発が起こって、原子炉の圧力容器が破損し、外にある原子炉格納容器まで破損する状態に到達する可能性がある。その様な状況に為らない様にあらゆる方法を使って止めなければならない。
●<チョン・ウンイ>:2〜3日前に、1号機・格納容器の放射線量が、急に突出したとのニュースがありましたが。
<小出>:そうだ。1号機・格納容器の放射線量が3倍程度に突出した。原子炉内の温度と圧力の変化をよく調べてみると、同時に上がっていた。これは、再臨界状態となって原子炉内で熱が発生した、とみる事が出来る。、核分裂生成物が発生し、既に破損された圧力容器から格納容器へ漏出し、放射線量が上がったと考えるのが、最も適切な判断であろう。
(以下、次回に続く)
[小出裕章はどんな人]
京都大学原子炉実験研究所研究員(助教)。1949年東京生まれ。1972年、東北大学工学部原子核工学科卒業。1974年、東北大学大学院工学研究科原子核工学専攻卒業。1974年から現職に従事。伊方発電所訴訟住民側証人として活動した。著書に『放射能汚染の現実を越えて』、『隠蔽される原子力:核の真実』等がある。
インタビューを進めたチョン・ウンイ氏は、神戸大学大学院国際文化学研究科で研究をし、京都大学国際共同研究GCOE研究員。
<参考サイト>
「福島第一原発事故は、原発をめぐる国家・電力会社・御用学者達の詭弁を断罪した」
(この記事に、小出助教の発言が、載っていますので参照ねがいます)
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