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(韓国・社会主義政治組織・タハムケ機関紙-「レフト(左翼)21」2011/11/09付)
http://www.left21.com/recommand/17?from=sidebar



 


韓米FTAは、社会公益と民主主義を攻略(攻撃)する


―彼等が言う‘利益’と‘国益’は、両国の大企業と資本の利益に過ぎない―




ウ・ソクギュン


(保険医療団体連合政策室長及び、韓米FTA阻止汎国本政策委員)



<訳者解説>

過日、「全ての物品と、サービス分野を貿易自由化のテーブルに乗せる」事をオバマに約束して来た野田首相のTPP(環太平洋連携協定)交渉の向う先は、‘日本のTPP交渉の先行モデルとしての韓米FTA’の中に、具体的に明らかになっている。「サービス分野」とは、「我々が手で触れる事が出来る以外のあらゆる生活分野」を指すが、TPPにしろFTAにしろ、当事者国の一握りの資本家階級の利益のために、大多数の民衆の生活と生命の犠牲を前提とする、あらゆる<生活分野の自由化交渉>である事は、以下の論文から明らかとなるであろう。


またこれら協定は、「投資家対国家間の紛争処理手続きに於いて、条約・協定などにおける、自国にはなはだ不都合な影響を及ぼす条項(毒素条項と呼ばれる)―ISD

investor‐state disupute を通して、ある意味では、当事者国家の一部大企業の利益のために、国家の主権を一部犠牲にしてでもとりきめようとする、特異な特徴を持ったものである。そこまでする理由とは、何よりも、これら協定の目的と本質が、世界資本主義の危機を延命する為の、なりふり構わない民衆攻撃である事を洞察しなければならない。



[本文要約]


○韓米FTAは、今まで公共領域としてとどまっていた分野を民営化し、規制を緩和し、資本の利潤創出の為の領域にしようとするものだ。


○韓米FTAはサービス分野を包括的に開放する。ここに所謂(いわゆる)“ラチェット”と呼ばれる逆進防止措置まである。即ち、一度規制を緩和すれば二度とこれを戻す事が出来ない所謂‘落張不入(一度張った札は手に戻す事は出来ないの意)’条項だ。


○韓米FTAは、このあらゆるサービス部門(教育と医療、年金と社会保障、甚だしきに至っては教導所(刑務所)、国家安保まで、あらゆる部門がサービス分野だ。)中、留保条項即ち、保留したと書いておいた条項外のあらゆる分野は、今後規制する事が出来なくなる。


○韓米FTAを受け入れながら、福祉国家について話をすることは、一言で、不合理)な話だ。FTAは商業化と民営化に向かって行く、片道列車の切符(one way ticket)に過ぎない。


○韓米FTAは、あらゆる公共領域と、あらゆる企業規制措置を無力化させるサービス分野の包括開放、逆進防止、投資者保護装置と、これ等を強制する投資者の政府提訴制度を備えた、企業の為の綜合贈り物セットだ。全経連と大企業達が自動車部門の一部の問題にも拘らず、諸手を挙げて歓迎する訳がここにある。


○彼等が言う‘利益’と‘国益’は、両国の大企業と資本の利益に過ぎないのだ。


○韓米FTAが撤廃しなければならないと言う貿易障壁は、即ち、社会の公益であり民主主義それ自体だ。その上、‘安保のための韓米FTA’と言う奇怪な論理は、韓米FTAと言う怪物に韓半島の軍事的葛藤の脅威までおまけに載せて来たのだから、もはや語る必要もない。



[本文]


今回の韓米FTA再協議は、甚だしきに至ってはイ・ミョンパク大統領が見ても、良かったと言う事が出来ない様だ。MB(大統領)さえ“韓米FTAを全体的に評価しなければ、今回だけで言えば駄目だ。”と語った。


自動車部門の関税撤廃で受ける利益が、韓米FTAで受ける最も大きい利益だと宣伝して来た政権が、韓国が支払う関税は5年間猶予し、米国が支払う関税は即時引き下げる再協議をしたので良かったとする事は厄介だ。


無論、イ・ミョンパク政府は良かったと主張する。自動車は米国の現地生産が多いので、関税撤廃が無くても輸出はうまく行くのだ。

そうであれば、一体全体、韓米FTAはどうして、やったのか?


知識経済部(訳注―韓国の産業政策を統合調整する, 貿易·通商と資源·エネルギー政策を管掌する政府部処. 2008年新設)が、今回発表した説明資料を見ると、自動車関税撤廃が無くても、自動車の‘部品輸出’で受ける利益が、年8億1千万ドル、再協議前より1ドルも減っていないと予測する。


豚肉関税撤廃猶予を出して貰ったって? 

2007年に結んだ協定だからすでに3年がたった。そうであれば、当時2014年の関税撤廃と決めた条項で、猶予期間2年を受けてきたら、1年の損害だと計算するのが正常な計算ではないのか?その上、2014年が関税撤廃期限であるバラ肉、ソーセイジ、など20項目は残った。


医薬品の許可特許連携の猶予?

2007年5月に、民主党(ノ・ムヒョン大統領与党―訳注)は‘神通上政策’を通して、医薬品の許可―特許連携を毒素条項として指摘し、パナマ、コロンビアFTAで、この条項を削除した。


ところが、韓国は3年の猶予を誇らしく主張した。いろんな面で‘本当に良くやった’(今回のイ・ミョンパク政権の)再協議だ。


それでもイ・ミョンパク政府は、韓米FTAは、ウインーウイン(勝った、勝った)と言う。韓国自動車工業協会も歓迎声明を出したし、全経連(全国経済人連合会)も“韓米FTAが持って来てくれる莫大な経済的、政治外交・国家安保的利益”の為に、速やかに批准する事を迫った。


民主党と自由先進党は、今回の再協議が利益の均衡を壊したので問題だと言う。それだけ取り出せば、(再協議)は構わないと言う話だ。


そうであれば、元来の韓米FTAが、そして今の再協議まで含んだ韓米FTAが持って来てくれる‘利益’と‘国益’と言うのは、一体全体何であるのか?


今再び、韓米FTAを振りかえって見よう。韓国政府と資本家達が、自動車関税問題にも拘わらず、韓米FTAに賛成する事で良く見せてくれる様に、韓米FTAは、単純に自動車や関税撤廃を目的にした協議ではない。


これらの主要目標は、むしろ、‘非関税障壁’であり、今まで我々が‘社会公益’と呼ぶものを解体するものだ。


韓米FTAは、今まで公共領域としてとどまっていた分野を民営化し、規制を緩和し、資本の利潤創出の為の領域にしようとするものだ。


まず、韓米FTAはサービス分野を包括的に開放する。ここに所謂(いわゆる)“ラチェット”と呼ばれる逆進防止措置まである。即ち、一度規制を緩和すれば二度とこれを戻す事が出来ない所謂‘落張不入(一度張った札は手に戻す事は出来ないの意)’条項だ。


ここで言うサービス分野は、商品以外のあらゆる分野を言う。


上下水道・電気・ガス・鉄道・地下鉄・道路・放送・空港・港は無論のこと、教育と医療、年金と社会保障、甚だしきに至っては教導所(刑務所)、国家安保まで、あらゆる部門がサービス分野だ。一言で、我々が手で触れることが出来るもの以外の、あらゆる生活分野がサービス分野だ。


韓米FTAは、このあらゆるサービス部門中、留保条項即ち、保留したと書いておいた条項外のあらゆる分野は、今後規制する事が出来なくなる。

一言で、企業の規制を完全に取り除くのだ。また保留措置と書いておくと言っても‘現在留保条項’に書いて置くのであれば、今の規制よりもっと強化することが出来ない。


民営医療保険の商品を例に挙げてみよう。


現在、「国民健康保険

は保障性が低くて、70~80%の世帯が一つ以上の民営医療保険に加入している。その規模も12兆ウォンで、国民健康保険財政の40%に達する。そうであるが、韓国では民営医療保険に規制がない。民営保険の天国と呼ばれる韓国でさえ、民営医療保険は、保険料を100ウォン納めれば、70ウォンは加入者に与えるようにする支給率規制があり、政府が定める商品を必ず売るようにする、標準化規制がある。欧州の規制はこれより遥かに厳格だ。

あえ、

今、韓国では民営医療保険が保険料を受け、加入者にどれくらい返してやるのか、どれほど多い加入拒絶と保険金支給拒絶があるのかさえ、把握されていない。そして韓米FTAが締結されれば、今後民営医療保険の規制は不可能だ。サービス商品に対する新しい規制が不可能である為だ。


今まで規制しない分野、そして、今まで開放した分野で、規制強化は不可能だ。電気・上下水道・ガス分野で、すでに多くの部分が民営化された。例えば、英国では鉄道を民営化した後、利潤だけを追求する企業の属性にせいで運営が目茶目茶となるや、鉄道を再国有化した。

上水も民営化後再国有化した事例は、全世界的に無数に多い。

しかし、韓米FTA協定後には、韓国が民営化した部門を再国有化する事は、不可能になるか、極めて困難となる。


これが、誰の利益であって、誰の‘国益’なのか?

尚且つ、‘投資者政府提訴制度’もある。SSM[企業型スーパーマーケット]規制を見よう。与野が合議しSSMを規制し様とした時、キム・ジョンフン本部長が韓EU・FTA違反だと言う一言を投げるや、あらゆる事が無かった事になった。韓EU・FTAでは、英国政府が英国のテスコに代わって、韓国政府に訴訟をかける事が出来るが、韓米FTAはもっとひどい。米国企業が韓国政府を直接提訴すればニューヨークで弁護士3名に、判決を受けなければならない。即ち、投資者・政府提訴制度だ。


2004年4月、カナダのニューブロンズウォクで、議会が自治団体の政府に公的自動車保険を投入することを要求した。保険料が220~993ドルまで減ったことがその理由であったし、またブリテイッシュコロンビアやサスカチャン州などではすでに施行している制度でもあった。しかし、保険会社達がこれを、政府の措置による間接没収だとして、訴訟をすると脅迫し、この措置は施行する事が出来なかった。カナダでだけオンタリオに続いて2番目に起こった事だ。



健康保険の保障性


韓米FTAでは、投資者保護の為にどんなFTAにも無かった条項まで入れて置いた。韓米FTAの“投資契約”と言う条項には“投資者が電力生産と配電、上下水道、通信のように国家に代わり大衆にサービスを供給する権利、或いは大衆が利用する道路、交通、運河の建設の様な基盤施設の事業権”を保護しなければならない権利へ釘を打つ。また、政府の措置により市場占有率が蚕食されれば、これを政府の間接没収(間接収用)と規定した。


   


△ヨンピョン島事態を活用し、韓米FTAを処理してしまったオバマとイ・ミョンパク 写真出処 青瓦台




韓国政府は、保険・環境・公企業・社会保障などは‘未来留保条項’であるから、政府が措置を扱うことが出来ると主張する。正しい言葉だ。しかし、そうしようとすれば、度外れた損害賠償をしなければならない。その為に、カナダのニューブロンズウィクの様な事が起こるのだ。実際には、一度民営化すればそれで終わりだ。戻る事ができないと言う事だ。


韓国政府が健康保険の保障性を強化することが出来るのか?

癌や重大傷病に対する保障制をもっと上げれば、癌保険や重大傷病保険は損害を見る。

国民年金を強化しても同じだ。あなたが保険会社の社長なら、韓国政府を対象に訴訟をしないだろうか?


一言で、社会保障の強化は死んでいるか、難しくなる。


社会保障の強化を前提にする福祉国家は、当然死んでいる。


韓米FTAを受け入れながら、福祉国家について話をする?

一言で、語不成(不合理)な話だ。FTAは商業化と民営化に向かって行く、片道列車の切符(one way ticket)に過ぎない。


投資者政府提訴をする事が出来る企業は、米国企業でない投資者と言う事にも注意しなければならない。SSM規制を難しくした韓・EU

FTAでも、「ホームプラス」(訳注―英国・テスコと韓国・サムソングループの共同出資のディスカウントストア)は、韓国企業ではあるがその資本を持った英国企業のテスコが問題になった。

韓国の大企業中、外国の投資者の持ち分がない企業もあるのか?

当然なことに韓国企業すべてが、韓米FTAの受益者だ。


韓米FTAは、あらゆる公共領域と、あらゆる企業規制措置を無力化させるサービス分野の包括開放、逆進防止、投資者保護装置と、これ等を強制する投資者の政府提訴制度を備えた、企業の為の綜合贈り物セットだ。全経連と大企業達が自動車部門の一部の問題にも拘らず、諸手を挙げて歓迎する訳がここにある。


今まで‘公益’と言う名前で、接近出来なかった公共領域と規制措置を、無力化させる事が出来る武器を手に入れる事となることに、彼等が万歳を叫ばない理由がなんであるのか。



‘ウイン―ウイン(勝った、勝った)協定’


それだけではない。医薬品特許など知的財産権の強化、GMO規定の大幅緩和、金融セイフガードの事実上の無力化など、韓米FTAが撤廃しなければならないと言う貿易障壁は、即ち、社会の公益であり民主主義それ自体だ。その上、‘安保のための韓米FTA’と言う奇怪な論理は、韓米FTAと言う怪物に韓半島の軍事的葛藤の脅威までおまけに載せて来たのだから、もはや語る必要もない。

    


△2007年(ノ・ムヒョン時期)の、韓米FTA反対示威 写真出処・ソン・ギョンホン




韓米FTAがウイン―ウイン協定であって、国益の為の協定だと?

韓国と米国の資本・大企業にはウイン―ウインであって、彼等の利益の為の協定と言う点で、彼等の言葉は正しい。しかし韓国と米国の民衆にとって、韓米FTAは彼等の‘国益’の為の協定に過ぎない。(韓米FTAに対する歓迎の意思を表現した米国自動車労組委員長が、米国労働運動から厳しい非難を受けている事は、即ちその為だ。)


韓米FTAは、韓国と米国の‘国益’について繰り広げる、ひと勝負の争いではない。したがって、今回の再協議によって‘利益の均衡’が壊れたことが本当の問題ではない。彼等が言う‘利益’と‘国益’は、両国の大企業と資本の利益に過ぎないのだ。


韓米FTAが撤廃しなければならないと言う貿易障壁は、即ち、社会の公益であり民主主義それ自体だ。その上、‘安保のための韓米FTA’と言う奇怪な論理は、韓米FTAと言う怪物に韓半島の軍事的葛藤の脅威までおまけに載せて来たのだから、もはや語る必要もない。


韓米FTAの廃棄なき、福祉国家や民主主義を語る全ての政治家は、嘘をつく者達だ。


いますぐの韓米FTAの廃棄が駄目だとして、一部条項だけ手直ししたり、国益に傷がいく再協定だけが問題だとするのは苦しい。

社会運動の積極的で粘り強い韓米FTA廃棄運動が切実な時だ。




(訳 柴野貞夫 2011/11/16)