「<論考> 日米防衛協力指針の改定と、11件の戦争法規は、日・米両帝国主義の、アジアと世界に対する新たな戦争準備である」 (2015年5月31日)
[論考] 日米防衛協力指針の改定と、11件の戦争法規は、日・米両帝国主義の、アジアと世界に対する新たな戦争準備である(その4)
T、「集団的自衛権行使」容認の「閣議決定」は、他国のための武力行使をどの様に正当化したか
U、安保法制の閣議決定案(一件の新法と10件の改定法)は、日本を、米国の核侵略戦争の戦場にするだろう
柴野貞夫時事問題研究会
T、「集団的自衛権行使」容認の「閣議決定」は、他国のための武力行使をどの様に正当化したか
安部自公政権は、2014年7月1日、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と称する<国家安全保障会議決定>を、‘閣議決定’した。
ここで、まず第一に、‘閣議決定’で、「集団的自衛権」を正当化する為の日本国憲法第九条1項及び2項を、公然と否定する彼らの主張を見て見よう。
● 「集団的自衛権行使」容認の憲法解釈「武力行使のための新三要件」
その内容を原文の文言に沿って要約すれば、憲法を捻じ曲げ、‘集団的自衛権’が容認できるという憲法解釈を合理化するため、安倍政権は、「憲法九条の下で許容される自衛の措置」と言う勝手な題目で、全面的な九条の否定を展開しながら以下の様に述べる。
「どの国も、一国のみでは平和を守る事は出来ず、日米安全保障体制の実効性を高め、日米同盟の抑止力を向上させることにより、武力紛争を未然に回避し、我が国に脅威が及ぶ事を防止することが必要不可欠である。そこで、これまで政府は、'武力の行使’が許容されるのは、我が国に対する武力攻撃が発生した場合に限られると考えて来た。しかし、他国に対して発生する武力攻撃であったとしても、その目的、規模、態様等によっては、我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得る。」従って「@我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、及び孝福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、Aこれを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない時、B必要最小限度の実力を行使する。(注―@〜Bの番号は筆者による)これは、従来の政府見解の基本的な政府見解として憲法上許されると判断した。」
この「政府見解」において基本的に許されない点は、第1に、国家間の紛争の解決の手段を、常に<日米軍事同盟による、武力を用いた抑止>(威嚇)に依存し、第2に、‘
他に適当な手段がない時’として、恣意的に、武力行使(戦争)以外を選択しない場合がある事を正当化していることである。第3に、自国に対する攻撃だけに、武力を行使する事を許される自衛隊に、他国の為の武力行使を認めさせようとしている点である。これらは、完全な憲法9条1項、2項の蹂躙と言う悪質極まる犯罪行為である。
「専守防衛」は、今日までの日本国憲法九条1項、2項の、紛争解決の手段としての戦争放棄と、自衛隊の存在を、「必要最小限度」の自衛力の保持と言う制約の下でのみ容認する事を示す、今日までの憲法解釈を象徴する概念である。安倍は、専守防衛と一体の「必要最小限度で許された自衛隊の武力」と云う概念を、外国との紛争解決の手段としての戦争に、自衛隊を動員する根拠として逆用しているのだ。これは、ファシストが常用するレトリックである。
『政府見解』において、筆者が付けた番号@〜Bが、所謂(いわゆる)安倍が言うところの「武力行使の新三要件」、即ち、自国への攻撃のみならず、他国への攻撃であっても、自衛隊が武力を行使(戦争参加)する事を正当化し、認める条件のことである。この彼等の、『集団的自衛権』行使の「新三要件」は、2015年日米ガイドラインに沿って、改定ないしは新たに立法を企む関連安保法規(戦争法規)のほぼ全てにおいて、『集団的自衛権』行使を合理化する為に必要な条件として、その条文の文言として記載されている。
従来の「武力行使」の三要件とは、「@我が国に対する急迫不正の侵害がある。A排除の為に他の適当な手段が無い。B必要最小限度の実力行使にとどまる。以上全てが満たされた時に、個別的自衛権が発動される。」と言うものだ。従って、自衛隊の武力行使の容認は、日本に対する武力攻撃の排除に限定されていた。新三要件は、「我が国への侵害」を、「我が国と密接な関係にある他国への侵害」へと拡大し、安保法制に頻繁に使われる事となる、「存立危機事態」や「武力攻撃事態」と言う新たな概念を匂わす曖昧な造語の原型がその中に込められることによって、米軍との、どんな集団的武力行使も対応できるように仕組まれている。
● 「後方支援」の枠組みを外し他国武力との一体化を推進
次に、この集団的自衛権行使に関する閣議決定の第2のポイントは、「武力行使に当たらない後方支援」の概念を、「集団的自衛権の行使」を前提にすることで、腹蔵なく、勝手気ままに拡大する事を宣言したことである。
「後方地域」、「非戦闘地域」など、「一律に区切る枠組み」をはずし、「自衛隊が幅広い支援活動を行えるようにする」として、他国軍との武力の「一体化」を推進する事に言及している。
さらに、国連PKO活動における自衛隊の武器使用を容認し、「いわゆる駆け付け警備」、「任務遂行の武器使用」のほか、「領域内の同意に基づく邦人救出などの‘警察的活動’の名の下で、際限なき非政府軍事組織などとの戦闘に、自衛官を投入する事を要求している。
以上の集団的自衛権容認を、日本国憲法を蹂躙しながら閣議決定した安倍自公民政権は、これを手みあげに、2015年4月、ワシントンにおいて日米再改定ガイドラインを策定し、引き続き、日本国憲法を根本的に蹂躙した関連安保法制(戦争立法)の改定・立法案を、5月14日の閣議決定で強行した。さらに、5月25日から国会での実質論議に入った。
U、安保法制の閣議決定案(一件の新法と10件の改定法)は、日本を、米国の核侵略戦争の戦場にするだろう
すべての主要な、安保関連法制(案)の狙いを暴く
目次
@「(現)武力攻撃事態法」の一部改正案 (今回)
A「(現)自衛隊法」の一部改正案 (今回)
B「(現)周辺事態法」の一部改正案
C「(現)周辺事態法―船舶検査活動の一部改正案
D「(現)国連平和活動法」の一部改正案
E(新法)「海外派兵恒久法(国際平和対処事態法)」
その他の関連法の改定−5件
▲国民保護法(改訂は、今のところ予定されていない)
▲米軍行動関連措置法
▲特定公共施設利用法
▲海上輸送規正法
▲捕虜取扱法
▲国家安全保障会議設置法
@ (現)「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」の一部改正(案)
● “武力行使の新三要件”は、政府の恣意的判断によって決まる
安倍は、この法の改定案において、「密接な関係にある他国に対する攻撃」を、自国への攻撃として規定し、集団的自衛権を行使する目的で、現法律に‘存立危機事態’という文言を書き加え、この法の「題名」を次の様に書き換えた。
「武力攻撃事態等及び存立危機事態に於ける我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」と。改定案で、‘存立危機事態’と言う新たな概念を作り上げ、この法の目的を、それへの対処のための体制を作ることにあると言う。
では‘存立危機事態’とはなにか?安倍は、どう規定しているのか。
“我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、及び孝福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態” (注−「集団的自衛権行使」の憲法解釈を行った「閣議決定」で規定した、“武力行使の三要件”の一つと同じ文言だ)だと言う。
そして、「事態が武力攻撃事態又は存立危機事態であると認定する場合にあっては、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がなく、事態に対処するため武力の行使が必要である。」(注−この文言も「集団的自衛権行使」の憲法解釈を行った「閣議決定」で規定した、“武力行使の新三要件”の一つと同じ文言だ)という。
‘存立危機事態’と、‘武力攻撃事態’と云う用語が、至る所、プリントされた様に出て来る。概念自体が曖昧である。曖昧である事は、それを国家権力が恣意的に判断する条件が予め準備されているという事である。
もともと、自衛隊が武力を行使出来るとしたのは、‘日本有事’における「武力攻撃事態」だけであった。1997年改定ガイドライン以降、「周辺事態」「武力攻撃予測事態」などの曖昧な文言が出てくる。現在安保法制(案)には、‘存立危機事態’‘武力攻撃事態’‘重要影響事態’‘国際平和共同対処事態’また‘グレーゾーン事態’と称する、それこそグレーな‘事態'まで登場している。今国会論議で明らかになって来たのは、曖昧な表現で、米国との戦争参加における、あらゆる事態に対応し、国民を欺く手法だと考えられる。法規(案)を提案する安倍や外務大臣自身が、明確に答弁できない事を見ても明らかだ。
● 米国との集団的武力行使は、国民の権利を根底から覆す
「国民の権利が根底から覆される明白な危険」と云う要件に該当するかどうかの判断が、政府・政権の裁量で恣意的に決められ、事実上無制限となるであろう。戦後、米国による戦争は、ベトナム・アフガン・イラク・リビア・コソボにおける様に、捏造と欺瞞、挑発とでっち上げによって、国際世論を誤導した先制攻撃的侵略戦争であった。たとえ、米国の侵略戦争によって自らが世界で引き起こした戦争による‘危機’であったとても、(日本の)「国民の権利が根底から覆される明白な危険」であり、‘存立危機事態’だと判断するのは、時の政権だと言うのである。安倍は、国会で“「新三要件」に当たるかどうかは、政府が国際関係の中で判断する”“個別、具体的に政府が判断する”と、それを認めて答えている。
● 武力攻撃事態法と一体の国民保護法
有事に、国民、民間組織、地方行政組織を国家の戦争体制に動員する法律−国民保護法(武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律−平成16年)は、武力攻撃事態法と一体的なもう一つの有事関連法である。
武力行使が行われ「存立危機事態」が発動された場合、“国民の命と権利が危険になる事態であり、それはまた「武力攻撃事態」でもあり、「国民保護法」を発動することになる。従って、現法でも、国民を総動員出来ると、安倍自民は踏んでいるのである。今、地域の防犯防災組織を、戦争に向けての市民動員組織や、‘有事時’の訓練組織に移行させる企みが、警察庁によって進められている事に目を向けなければ成らない。
「国民の権利が根底から覆される明白な危険」は、外からの脅威によってではなく、むしろ、米国とそれに追随して「集団的自衛権」による武力の行使の機会を窺う日本の支配階級によってもたらされるものである。
●“アジアへの旋回(pivot to Asia)”政策は、米国のアジア・極東に於ける核戦争準備
米国の為に集団的武力行使をすると言う安倍と日本の資本家階級は、次の京都大学原子炉実験所の小出裕章氏の話に耳をほじくって聞かなければならない。
2003年6月、氏は、「朝鮮の核問題」と題する講演で、米国による朝鮮への核兵器による威嚇を非難し、朝鮮の核武装を擁護して次のように指摘した。
「朝鮮と米国の間では依然として停戦協定があるだけで、戦争状態が続いている。私は、原爆は悪いと思う。どこの国も持つべきでないと思う。朝鮮だってやらないに、こしたことはない。でも、厖大に核兵器を持っている国が、<悪の枢軸>というレッテルを貼り、先制攻撃をする、制裁するなどという主張は決して認めてはならない。その一方の当事者である米国は核兵器、生物兵器、化学兵器、大陸間弾道ミサイル、中距離ミサイル、巡航ミサイル、ありとあらゆる兵器を保有し、自らの気に入らなければ、国連を無視してでも、他国の政権転覆に乗り出す国である。そうした国を相手に戦争状態にある国が朝鮮であり、武力を放棄できないことなど当然であるし、核を放棄するなどと表明できないことも当然である」
軍産複合体によって支配された、オバマに至る米帝国主義政権は、武器売却契約において、全世界総額の77.7%を占め、2011年実績5兆2400億円に上る。オバマ政権による“アジアへの旋回(pivot to Asia)”と言う方針は、アジア極東に於ける米国覇権の再構築のため、中国とロシアに対する敵対的緊張関係を通して、軍事力の拡大強化を推し進め、アジアに於ける先制核戦争の準備に他ならない。軍事予算が14年度−59兆円に上る米国は、正真正銘の軍事国家であり、その経済も、常時的に戦争によって維持されている。しかも、ブッシュ以来、核の先制攻撃を国家の政策として掲げる、ならず者国家だ。安倍が主張する、米国との集団的侵略戦争への参加は、日本が米国の核戦争の一員と成る事だ。こんな安倍の破滅的妄動を決して許しては成らない。
「集団的自衛権による武力の行使」は、日本に対する武力行使を排除する事とは、全く関係の無い戦争行為である。集団的自衛権を容認すると言う憲法解釈は、論議の余地なき憲法9条1項。2項の蹂躙である。
また同時に、「個別的自衛権」が、武力攻撃が発生して初めて武力行使を認めているのに対して、「集団的自衛権」の下では、如何なる状況でも武力が行使できる余地があることを明かにしなければならない。
A 「(現)自衛隊法」の一部改正(案)
● 自衛隊の主任務は、他国の防衛と集団的自衛権の行使
「(現)自衛隊法」の改正は、憲法の制約を不法に踏みにじり、他国の戦争の為に自衛隊を動員出来ると、不当にも主張する安倍犯罪者集団による、「集団的自衛権」の直接的な対象である。
(現)「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」の一部改正(案)は、安全保障法制整備に関する与党協議会」が合意した「安保法制整備の具体的な方向性について」に沿って準備されたものである。
憲法尊守義務を放棄した九条泥棒集団・自公民は、憲法を踏みにじった集団的自衛権行使の閣議決定を手に入れた喜びを露にしながら、“「新三要件」によって、新たに武力の行使が可能となったこの新事態については、既存の'武力攻撃事態’等との関係を整理した上で、その名称及び定義を現行の事態対処法に明記する事。自衛隊の行動及び、武力行使に関し必要な改正を盛り込め。自衛隊法76条、(防衛出動)、同88条(防衛出動時の武力行使)を改正せよ”と指示した。
● 自衛隊の主任務は他国の防衛と集団的自衛権の行使
(現)自衛隊法− 第76条(防衛出動)は、「 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃(以下「武力攻撃」という。)が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。
(現)自衛隊法 第88条(武力行使)
第七十六条第一項の規定により出動を命ぜられた自衛隊は、わが国を防衛するため、必要な武力を行使することができる。
● 改正(案)76条(防衛出動)
「内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛する為必要があると認める場合には、自衛隊の全部または一部の出動を命ずる事が出来る。」
二、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び孝福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態
● 改正(案)88条(武力行使)
第76条第1項の規定により出動を命ぜられた自衛隊は、我が国を防衛する為、必要な武力を行使する事が出来る。
集団的自衛権の行使を正当化する安倍一派による、自衛隊法の改正(案)は、76条、88条に留まらない。防衛省設置法改訂案も含め、自衛隊の役割と行動半径を無限に拡大させる法的措置を展開させつつある。
政府は、武力行使の「新三要件」に当てはまると恣意的に判断すれば、地理的制約もなく、世界至る所で武力を行使するつもりでいる。現行の自衛隊法が、自国への攻撃に対処するものであったので、他国との集団的武力行使に対処して、自衛隊と政府は、その法整備にてんてこ舞いの有様だ。
以下は、集団的自衛権による武力行使が、自衛隊組織を世界規模で、戦争を行う完全な軍隊に仕上げる法改正の動きだ。
○ 米軍等の部隊の武器等の防護で、武器使用を認める(自衛隊法改正)
○ 米軍部隊への役務の提供―では、米軍による弾道ミサイルなどを破壊する措置をとる為の必要な行動や、機雷などの除去または収集する自衛隊と共に現場に所在する米軍などへの役務提供。(自衛隊法改正)
○ 自衛隊と米軍の」合同訓練の現場での米軍の保護等など、米軍との一体的関係は、留まる所がない。(自衛隊法改正)
○ 「日米の調整メカニズム」は、自衛隊と米軍の常時的統合司令部も視野に入れている(2015年日米ガイドライン)
○ 防衛省設置法改定案では、「文民統制」規定の廃止を盛り込み、背広組の「運用企画局を廃止。部隊運用を制服組に統合し、制服と背広の「一体関係」が予定されている。
○ 自衛官処罰規定(自衛隊法改正)
そもそも、海外派兵を想定していなかった自衛官にとって、派兵先での犯罪処罰は存在しなかった。しかし、海外派兵任務は、イラク特措法以後、急増することとなり、また、上官命令に抵抗する隊員も想定せざるを得ない。上官命令への集団的反抗などに対する処罰規定を盛り込み、反戦自衛官の目を摘むことも考慮しての対応だ。
(続く)
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