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武 建一委員長への手紙/奈良−沖縄連帯委員会 「沖連委通信」2021年2月3日)


         資本・国家による搾取支配に抗う
 
                    〜人間の尊厳の闘いとの連帯のために〜
     
                                  (奈良−沖縄連帯委員会代表) 崎浜 盛喜


「人間(生命)の安全保障」よりも「軍事(経済)の安全保障」を優先する日本国家の「統制下」に於いて、皆さん、どうしていますか。

私は昨年末に連帯労組関生支部の武建一委員長と有意義な時間を持つことができました。武委員長と関西の生コン労働者の「人間の尊厳」をかけたすさまじい「闘い」にあらためて衝撃を受け、労働者として、人間としての魂の叫びに少しでも応えたく、その思いを武委員長に伝えました。
この連帯労組の闘いについは、関西各地での真相報告集会や弾圧裁判糾弾闘争、関連書籍等で多くの人々が共有されていると思いますが、私から改めて闘いの意義の再確認と連帯行動強化のために訴えさせてもらうことにしました。
武委員長の了解のもとに大分長い手紙ではありますが紹介させていただきます。読んでいただければ幸いです。あらゆる人々の尊厳と幸せのために。

武 建一委員長様
今朝から雪が降っています。私は故郷沖縄から出てきて早55年になります。武委員長と同じく南国生まれですので今でも寒さには弱いのですが、雪が美しく、ちょっと喜んでいます。武委員長はどうしていますか。
昨年末は大変有意義な交流の機会を作っていただき、心から感謝申し上げます。その上、委員長の著書「大資本はなぜ私たちを恐れるのか」を送っていただき嬉しい限りです。早速新年になって読ませていただきました。
私は日本語(文章)が下手なので(そもそも沖縄では学校に行くと日本語を使い、家に帰ったら沖縄語の生活でしたので)、武委員長のすさまじい生き方・人生(この表現も不十分)を語れる自信は毛頭ありませんが、武委員長の闘いの魂に少しでも触れることができればとの思いで手紙を書かせていただきました。

「タコ部屋」の奴隷労働環境に抗して立ち上がる
武委員長の強靭な精神と優しい人柄、そして人生(生き様)の思想が余すところなく表現された画期的な労働運動史ではないかと、驚嘆している次第です。
故郷・徳之島から19歳の時来阪され、タコ部屋同然の劣悪な労働と生活からの出発は、我々琉球諸島の人々が、1879年の「琉球併合」以来、戦前・戦後から現在までの苦難の歴史を彷彿させました。その地獄のような生活環境から、人間としての誇りを片時も忘れることなく、悪徳大企業(資本)や警察権力の弾圧に絶対に屈することなく、現在に至るまで貫徹されてこられた武委員長のゆるぎない闘争心と生き様に改めて敬意を表するとともに、同胞の我々や労働者・人民大衆が学び、連帯し、資本による収奪(搾取)と抑圧との闘いに覚醒することを強く感じています。
生コン労働者の地獄のような現場の実態―「六畳の部屋に三人が押し込められータコ部屋」「長時間労働―有給休暇なし・正月三が日だけ」「毎月240時間の残業」「日雇い身分―雨が降れば失業者・給料なし」「奴隷労働―慢性的睡眠不足」等々。
武委員長は「安い賃金で働かされている私たちは、長時間働くことで帳尻を合わせてきた。しかし、それは経営者だけが一方的に得する結果しか生み出さない」「私たちは搾取されている」等々を「労働学校」で学びました。
「私たちの賃金は低く、長時間残業しなくては生活に困ります。ある運転手は『昨年生まれた子供を、明るいところで初めて見たら、歩いていた』と笑っていましたが、それほど、朝暗いうちから夜遅くまで働いて生活していたのです。このような無理な労働は、自分の生命をすり減らし、ひいては交通事故の原因になります。」(61年の生コン共闘会議春闘ビラ)と立ち上がったのです。
この生コン業界と労働条件の最悪な実態―日本資本主義体制の差別・収奪(搾取)支配構造―との壮絶な闘いが武委員長ら生コン労働者によって開始されたのです。
それは、日本労働運動史上驚愕するどころか、誰もが想像を絶する闘いとなりました。平和ボケし、大企業や資本主義体制に屈し、補完物になり下がった「労働組合」と「国民」に「これが日本の真実なのだ」と強く訴えたい心境です。

「法律を守っていたら労働組合はつぶせない」〜ゼネコンの暴虐と獰猛(どうもう)な弾圧
この「人間として最低限度の生きる権利」を主張して始まった「生コン労働者の闘い」にゼネコンと生コン企業は恐喝・脅迫・迫害等暴虐の限りを尽くしました。
なんとかつての東映の「任侠映画」の如く「ヤクザ」を会社の労務管理者として雇い、労使交渉では刃物を見せびらかして脅迫し、幹部役員を拉致・監禁して脅かし、日々付け狙い、自宅に乱入して家族もろとも脅迫して、労働組合を解散させようとあらん限りの暴力が打ち下ろされたのです。
この70年代から80年代、連帯労組は生コン業界の実態について的確な現状分析を行っていました。第一に生コン業界は「谷間の業界」と呼ばれ、ゼネコンからは買い叩かれ、セメント会社からは高いセメント購入を押しつけられる。そのために零細業者は労働者を酷使し、搾取を強化することによって企業を必死に守ろうとする。この零細業界の安定を図るためには「協同組合」の意義を再認識して中小企業の連携を強化して大企業と対等な立場に立たなければならない、と主張していました。
第二は生コン業界の「社会的信用」の問題です。95年の阪神淡路大震災の時、連帯労組は阪神高速・新幹線の橋脚等々の倒壊問題にすぐさま「調査団」を結成しその原因究明に乗り出しました。調査結果ではその倒壊の原因が「シャブコン」(不良生コン)使用であり、それがゼネコンによる下請け・零細企業への圧力によることが判明しました。(以後「コンポライアンス活動」へと発展。)
このような生コン業界の労働者―零細企業―ゼネコンという二重構造の収奪・搾取体制を打ち破るべく、連帯労組は零細業者に対して「協同組合」の強化による大資本との対等な関係の確立と労使の「弱者連合」を呼びかけ、共通の敵であるゼネコン・大資本との闘いを開始したのです。
この歴史的・社会的労使共闘に恐れおののいたゼネコン・大資本は激烈な弾圧を強行しました。81年、日経連の大槻文平会長(当時)は「関西生コンの運動は資本主義の根幹にかかわる運動をしている」と表明し、82年には警察庁長官の三井脩が「労働運動が激しい賃金闘争の高まりが予想される。」「早期鎮圧と拡大防止に努められたい」と堂々と生コン労働組合運動の弾圧を宣言したのです。
その上狼狽した日経連は82年の講演会で「法律など守っていたら組合を潰すことはできない。我々のバックには警察がいる」と違法弾圧の檄を飛ばしたのです。
そして、このような驚愕・震撼する「弾圧・壊滅宣言」が実行されたのです。武委員長は2年間で6回も繰り返し繰り返し不当逮捕され、641日間に及ぶ長期拘留となりました。湯川副委員長は8回不当逮捕され、関生支部関係者は延べ89人も不当逮捕されたのです。そればかりか73年には片岡運輸の植月一則さん、82年には高田建設の野村雅明さんがヤクザによって殺害されるという胸が張り裂けるような「殺人事件」が惹起されたのです。野村さんの社長の妻は「殺し屋に2000万円を支払った」と供述しています。
検察・警察・業界団体が一体となり関生労組の解体を策動し、そのためにはヤクザを使い、現在ではあの(おぞ)ましいレイシスト団体に金を払ってまで組合抹殺の悪行を繰り返しています。

国家権力による憲法破壊の違法弾圧
組合つぶしを狙った差別・解雇・企業閉鎖・暴力団介入・日経連による政治弾圧、権力の暴力的介入等々・・・もはや日本の民主主義が崩壊したとしか言いようがありません。さらに重大な問題は、不当逮捕の「理由」が憲法を真っ向から否定し、労働者の「生存権」さえも奪おうとする悪逆無道な「罪名」そのものなのだ、ということです。
企業としての倫理を求めるための「コンプライアンス活動」(「シャブコン」の摘発等)が「恐喝」とされ、労働組合としての当たり前の権利の行使である「ストライキ」が「威力業務妨害」だとされたのです。この違法な権力行使によって89名もの労働者が不当逮捕されるという異常事態となったのです。
企業の「組織犯罪対策本部」と警察の「組織犯罪対策課」と「公安」が結託して「戦後労働運動史上最悪で大規模な刑事弾圧」が実行されたました。さらには、実際には現場にいなかった組合員も不当逮捕されました。つまり「組織犯罪(ヤクザ・暴力団)対策法」と「共謀罪」が悪用されたのです。(いや、元々この法律の目的と本質そのものである。)
憲法28条の労働組合の「団結権」「団体交渉権」「団体行動権」が蹂躙されたのです。労働法学会の学者78人は「組合活動に対する信じがたい弾圧を見過ごすことは出来ない」と「労働者の労働条件の改善を求める行為や、法令無視による不公正な競争を防止しようとする組合活動が、当該活動の正当性を判断されることなく、違法行為とされ刑事処分されるならば、憲法28条の労働基本権保障も、労働組合法による組合活動保障も絵に描いた餅になってしまいます」との抗議声明を発表しました。さらには全国124人の地方議員が「関生支部への弾圧は民主主義の危機だ」との弾劾声明を発表しました。
このような人権と生命を脅かす重大事件に対して、メディアは事実関係や生コン業界の実態を何ら調査することなく、労働者と労働組合の意見を聞くことなく、まるで警察の「手先」=広報部の如く報道したのです。有名な新聞各社の見出しは「生コンのドン逮捕」「生コン組合恐怖で支配」「武容疑者供給ストップし工事妨害」・・・武委員長や連帯労組をヤクザに仕立て上げ、「社会的制裁」を加えたのです。資本家と権力は、拍手・喝采し、歓声を上げたことに違いありません。

「国家と資本の暴力」に屈せず生コン労働者・人間の尊厳を貫く
このような激烈な大弾圧にも屈することなく、闘いが継続され数々の「成果」が達成されました。武委員長は「それでも私たちは、背景資本(ゼネコン)と対峙し、各協同組合と協力、共闘関係を結び、多くの成果を上げてきました。タコ部屋同然の労働環境から始まった私たちの運動は、年間休日125日、平均年収800万円を実現させました。また、未組織労働者も含めて労働環境の底上げを図り、休日制度、賃金制度、雇用制度、退職金制度、福祉制度の整った労働協約の締結にも至りました」と述べています。
我々はこの血のにじむような、生命をかけて勝ち取った「成果」をどう理解、認識するのかが問われています。これらの「成果」は現在の憲法下に於いては当然保障されるべき労働者の権利であり、労働環境に外なりません。現憲法下でこのような恐るべき異常実態が今なお惹起されているのです。
この「当然の権利・労働条件・生活」が何故、熾烈で想像を絶する闘い・労働運動で勝ち取らなければならないのか。これが日本の大企業・大資本と日本政府の政策そのものであることを痛烈な反省を込めて認識しなければなりません。

この闘いを支えた連帯労組の理念は「誰かを犠牲にすることで生存が許される社会はご免です。労働者も中小企業もともに発展していきたい。生き続けたい。生コン業界で働くすべての人が、人間らしく生きることの出来る社会、希望を持つことの出来る社会、それこそが私たちの到達目標です」。
そして武委員長は「労働組合は社会的存在だと思っています。だから、国家権力も大資本は私たちの運動と敵対する力で弾圧するのです。国家権力や大資本が本当に恐れているのは、単体としての労働組合ではありません。労働組合が中小企業を巻き込み、弱者連合としての労使協定等を成立させ、業界、社会に大きな影響を持つことを恐れているのです。」と述べています。まさに「大資本はなぜ私たちを恐れるのか」です。
この国は基本的人権の尊重、平和主義、国民主権を精神とする法治国家、民主主義国家を標榜しています。だがしかし、その実態と本性は資本主義体制―資本家階級を守るために、社会秩序(資本主義体制)を維持し、発展させるために法律があり、政府(国家)が存在する、という真実が連帯労組の闘いによって白日の下に晒さらされたのです。
生コン労働者の問題は、「日本の労働者の縮図」である以上に、日本社会―資本主義国家体制の根源的矛盾と病巣(病)、人間の尊厳に対する挑戦=人間破壊そのものに他なりません。だからこそ彼らゼネコン―企業―資本家階級は、資本家・企業の利潤・利益そして、その体制が脅かされるとして、連帯労組の壊滅・せん滅を画策したのです。
国家の本性が資本家の利益、資本主義体制を守ることであり、連帯労組の闘いがその体制の崩壊につながる危機を察知したがゆえに、資本と国家が一体となって大弾圧に乗り出したのです。連帯労組への大弾圧は「国家と資本の暴力」に他ならないと断言できます。

日本国家の正体―帝国主義国家の復活か
このような「日本国家」と「資本家階級」に我々琉球・沖縄人は多大な犠牲を強いられてきました。現在も日本国家と支配者(資本家)階級は琉球・沖縄人に襲い掛かっています。我々はあらゆる選挙(知事選挙・国政選挙・県議会選挙等)や県民投票等再三再四に渡って辺野古新基地建設反対の民意を表明してきました。また、軟弱地盤や活断層の存在によってもはや新基地建設が不可能であることが明白になっています。にも拘らず日本政府は、この民意を無視して、今なお辺野古・大浦湾に土砂の投入を強行しています。今後は沖縄戦で犠牲となった遺骨を含む土砂が使用されるという,悪逆無道な悪政も明らかになっています。そればかりか奄美大島・宮古・八重山各諸島に日本軍(自衛隊)基地建設を強行して琉球諸島全体を軍事要塞化しようと企んでいます。このような日本国家による軍事植民地主義政策を粉砕すべく全面対決の闘いが展開されています。(連帯労組が辺野古・大浦湾に抗議船を繰り出して新基地阻止闘争を展開されていることに、あらためて感謝申し上げます。)
だがしかし日本政府は、山城博治・沖縄平和運動センター議長をねつ造した「罪名」で201610月から3回も不当逮捕を繰り返して152日間にわたって長期拘留を行いました。その他多数の仲間が不当逮捕・拘留される異常事態となりました。日本政府の国策に反対する人々に「国賊」「非国民」の悪辣な烙印を押し、「見せしめ」「脅迫」「迫害」の違法・無法な刑事弾圧が強行されてきました。まさに武委員長や連帯労組に対する不当弾圧と不当逮捕・長期拘留と同様の刑事弾圧が強行されたのです。国策に反対する者はあらゆる手段―違法と暴力で抹殺する、これが日本国家の正体なのです。もはや帝国主義国家体制が堂々と復活する危険な時代に突入したと断言せざるを得ません。

正義は、我々にあり
私にとって忘れがたく熱くなったもう一つの場面があります。武委員長がヤクザに拉致・監禁され「さすがに私もこの時ばかりは死を意識しました」時、徳之島出身のヤクザの幹部が「島の人間を殺したら承知しない」と強弁したことによって武委員長の命が救われた場面です。「島ん人(ちゅ)の真心」が武委員長の命を救ったと思うと胸が熱くなりました。
琉球諸島各地の「島ん人(ちゅ)」が1879年の「琉球併合」以来、特に大正期の「ソテツ地獄」と戦後の「米軍支配」の時期を中心にして人々が家族と自らの生活・生命を守るために島(故郷)から出稼ぎ労働者としてこの日本にやってきました。圧倒的な数の同胞たちが最底辺の労働者となり、「浮浪者」「夜の街」「ヤクザ」等々と奈落の底で血を吐くような人生を強制されました。にもかかわらず彼らと我々を支えてきた心情は「島ん人(ちゅ)」というアイデンティティであったし、それは現在でもなお生き続けていると確信しています。現在もなお厳しい生活環境は改善されるどころか悪化し続け、苦難な人生を余儀なくされている同胞たちに思いを馳せ、共に人間としての尊厳が尊重されるよう連帯行動を強めなければならないと痛感しています。
武委員長、お体を大切にしてください。琉球・沖縄人と労働者人民大衆・被差別被抑圧民衆の人間としての尊厳と解放のために、これからも連帯を強化してともに闘い抜きましょう。

「正義は我々にあり」です
長文の手紙となりましたが、私は「大資本はなぜ私たちを恐れるのか」の著書から多くの貴重な教訓を学び、力を貰いました。私にとってはまだまだ言い尽くせない武委員長と生コン労働者の闘いや思いが限りなく存在していると強く認識しているところです。これからも武委員長と仲間・同志の皆様方との熱くて強い連帯行動を継続していきたいと決意を新たにしています。皆様方によろしくお伝えください。
(2021年1月12日)

<追伸>

「連帯労組」の正式名称:全日本建設運輸連帯労働組合近畿地方本部・関西地区生コン支部

「武建一が語る 大資本はなぜ私たちを恐れるのか」(武委員長の著書)
発行所:(株)旬報社(20201210日発行)
ぜひ読んでください。

「人新世の「資本論」」(著者:斎藤幸平
*発行所:集英社(2020922日発行)
もうすでに読まれたかもしれませんが、マルクスの復権―資本主義システムの廃止―をわかりやすく書かれています。

「琉球民族遺骨返還訴訟・第8回弁論」へ参加を!
日時:2月26日(金) 午後230分〜
場所:京都地裁大法廷
*抽選の場合がありますので午後1時30分に集合してください。

「琉球人遺骨保管住民監査請求―支援集会」
日時:2月25日(木) 午後5時30分〜
場所:響都ホール(京都駅八条口ロアバンティ9階)