<論考・1> 朝鮮の水爆実験を<非難>する帝国主義者の偽善と欺瞞
(2016年1月22日)
柴野貞夫時事問題研究会
柴野貞夫時事問題研究会は、この<連載論考>を通して、米国と言う国家が、対朝鮮外交における取り決めを、<体制崩壊までの時間稼ぎ>と考え、常に、国家間の約束を簡単に破り、その原因が朝鮮側に有るかのように、全ての責任を朝鮮側に負わせ、事実関係の捏造を繰り返して来た事実。それによって、国際世論を誤導する、世界の外交史に類を見ない手管を駆使してきた事実を、徹底的に暴露して行くものである。
<連載項目>
1、 朝鮮の水爆実験を<非難>する米国の、偽善と欺瞞の歴史(今回)
2、米国は、朝鮮半島の非核化協議で、1994年朝米合意から2009年六者協議の破綻まで、如何に朝鮮と国際世論を欺いて来たか(次回)
3、朝鮮の核は、何故自衛的なものなのか。朝鮮政府の、朝鮮半島の非核化への努力の歴史
4、安倍政権の戦争法と、日・米・韓 ―三角軍事同盟は、朝鮮半島と東アジアに、戦争の危機を生み出している。朝鮮の<米・韓の合同軍事演習中止に対する、朝鮮側の核実験中止>、及び、<停戦協定に代わる平和協定の無条件締結>提案を無視、朝鮮半島の一触即発の核戦争危機を生み出している米国を糾弾する。
▲写真上 国連で記者会見するアン・ミョンフン朝鮮国連次席大使(右)(写真:AP)
●2015年1月?日、朝鮮民主主義人民共和国は、朝鮮に対する侵略的核戦争演習―“米・韓合同演習の中止を決定するなら、核実験も中止する”と提案した。
「2015年1月14日
国際連合で記者会見し、米国に対し、朝鮮に対する侵略的核戦争演習―米・韓合同演習を非難、しかし、もし“演習を中止するなら、朝鮮は核実験を中止する用意がある”と提案をした。(韓国・中央日報2015年1月?日)
朝鮮民主主義人民共和国のアン・ミョンフン国連次席大使は、「(米韓が合同軍事演習を中止すれば)朝鮮は核実験を一時的に中止する。(この提案をのむなら)今年中に朝鮮半島で、多くのことが可能になる」と語った。アン次席大使は「アメリカは内政に介入し、南北間の対話を邪魔している。我が国を敵視し続けている」と批判した。これに対し、アメリカで朝鮮問題
を担当するソン・キム特別代表は「40年間続く米韓の軍事演習について、朝鮮民主主義人民共和国が不満を言う権利はない」などと、外交交渉の相手に対する不遜極まる発言をした。問答無用的に朝鮮民主主義人民共和国の提案を拒否した。
この、2015年1月14日のキムに代弁させたオバマ政権の態度と、その後の10月18日、朝鮮外務省の
「無条件の平和協定締結」提案に対する「拒否回答」は、(後述する様に)更に質の悪い問答無用的な代物だった。
ソン・キムは、1975年から始まった米韓合同軍事演習によって、40年間もの間、朝鮮民族を核戦争の恐怖に晒して来た米国の非人道的仕打ちを、事もなげに肯定した。米帝国主義の外交的代理人としてのその役割の中に、朝鮮人を祖先に持つ人間として、何かしら、魂ののりしろを示しても良いと考えるのは、筆者の感傷なのかもしれない。
彼の頭には、1994年10月、クリントン政権時、米国と朝鮮の間で、戦後初めての直接接触から到達した 「
米国による核兵器の脅威と、その使用がないよう米国は北朝鮮に公式の保証を与える。
( The U.S. will provide formal
assurances to the DPRK, against the threat or use of nuclear weapons by the
U.S.)」とした「米朝枠組み合意」が、ブッシュ政権の偽計によって踏みにじられた事も、その後、2009年4月の6者会談の破綻に至る全ての朝米間の外交交渉の過程で、
主権国家の崩壊だけを夢見た、対朝鮮敵対視政策を朝鮮外交の軸に据えた米国が、朝鮮政府を欺瞞し、国際世論を誤導して来た反省は、露のかけらもない。
この様な米国の態度が、2016年1月6日の朝鮮の、自衛的な<水爆実験>につながっていく事になった。この時になって初めて、米国はことの重大さに気付く事になるのだ。
●8月20日の軍事境界線での砲撃事件は、朝鮮の体制崩壊を目的とした不法極まる米韓合同演習が、朝鮮半島を核戦争の一触即発事態に火を点けた。
2015年8月17日から28日まで行われた米軍と南朝鮮軍(韓国)の合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダム・ガーデイアン」の期間中である20日、朝鮮半島の軍事境界線上で「地雷の爆発」が発生し、数十発の砲弾が朝鮮側に発砲された。米韓側は、地雷の爆発は朝鮮側が仕掛けたものと一方的に発表し、相も変わらず、それを鵜呑みにした「国際世論」は、一斉に、朝鮮側の「米韓軍事演習」に対する挑発だと騒ぎ立て、砲撃は、「朝鮮側の砲撃に対する応射」だと事件を捏造した。
この事件の真最中に行われていた韓米合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダム・ガーデイアン」は、実践的シナリオに基づいて、米軍30000、韓国軍50000を動員し、体制崩壊の目的を公言してはばからない、核兵器に依る先制攻撃を軸とする核侵略軍事演習である。核戦略爆撃機B52H、100余の核爆弾を搭載した核打撃空母など、あらゆる攻撃武器が投入された。1974年に初めて作成された米軍の「作戦計画5027」や、そのあとの「5029」に基づいた演習である。これは、テロを含む軍事力を行使しながら、朝鮮に深く侵入し、‘急変事態’を誘導しながら、政府指導者を逮捕し、国家を転覆し、朝鮮共和国を占領する」という目的の下で行う、徹頭徹尾挑発的な、主権国家を冒涜する国家テロそのものである。しかも、非人倫的な先制的核攻撃戦争のプログラムによる侵略的大演習である。
侵略戦争を目的にした、韓・米の大武装部隊と、民間人50万を動員した「軍事演習」は、そのまま実際の戦争状態に移行する態勢を持っていることは言を持たない。
在韓米軍の対北情報調査部のHPでも、米帝国主義者どもは、それを臆面もなく明らかにしている。(以下のサイト参照)
http://infoseek_rip.g.ribbon.to/chorea.hp.infoseek.co.jp/usa/oplan5027/index.htm
例えば、2014年3月27日から4月7日まで展開した連合上陸訓練―トクソリ<合同軍事演習>である<双龍>の例でみると、この演習で、アメリカ国外に司令部を置く唯一の海兵遠征軍である(在沖縄)米海兵隊第3遠征旅団を投入した。アジアから中東に至る地域で、紛争を醸成した後、その地に迅速に展開する侵略専門部隊だ。これが、佐世保基地駐留する第7艦隊揚陸艦部隊と、沖縄に展開するこの遠征軍が一体となって行動することで、緊急展開部隊として朝鮮半島北部に上陸すると言う想定である。
米海兵隊第3遠征旅団、海軍機動隊を始めとした米帝侵略軍の武力・1万余名と、南朝鮮軍4500余名等が参加し、民間人も50万以上が動員された。この訓練は、朝鮮側の海岸地域と類似したキョンサンブクド(慶尚北道)ポハン(浦項)一帯で、朝鮮への奇襲上陸作戦演習として敢行された。膨大な武力が海上と空中武力の支援の下で、上陸装甲車、水陸両用戦車などを利用し、海岸に上陸した後、共和国北半部の中心深くに戦闘地域を広げながら、増援武力が進出する事が出来る足場を準備する事を基本目的としていた。
米国と南朝鮮軍部は、この訓練の仮想占領地域が≪北の東海岸地域≫だと言う事を公然と宣伝しながら、北侵攻撃能力を更に強化する為、訓練のレベルと規模を不断に高めてきた。
今回、軍事境界線において、この様な挑発的軍事演習の真っ最中に引き起こされた地雷爆発事件は、一触即発の全面戦争を引き起こしかねない事態であることは、誰が見ても明らかだ。
●8・20−砲撃事件直後の2015年8月21日、朝鮮外務省は、直ちに抗議声明を発表し、米・韓の挑発行為を厳しく糾弾した。
(2015年8月22日付 労働新聞―朝鮮外務省声明 、原文サイトは以下)
http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2015-08-22-0009
「朝鮮は、当方から砲弾一発、銃弾一発も先に発射したことはない。ひいては誤発事故の一件もない。当方が、何かの軍事目的を必要としたのであれば、よりによって敵の大軍が<ウルチ・フリーダム・ガーデアン>合同軍事演習に進入して、最高レベルの戦争態勢に入っている時に、たった一、二発の砲弾で戦火を仕掛けたのかと云うことである」「<地雷爆発>事件を捏造し、それを口実に対心理戦放送を再開し、国際社会に対し当方の挑発と思わせ、軍事演習を強行する口実にしている」この戦争の瀬戸際に至った米・韓の挑発行為に対し、「48時間以内に、対北心理戦放送を中止し、(他の)全ての心理戦手段を撤去しなければ、強力な軍事行動に出る」と、最後通牒を送った。韓米は、演習の一時中断に追い込まれた。
●10月18日、朝鮮外務省は声明を発表し、米韓軍事演習の渦中で引き起こされた軍事境界線上での「一触即発」の事態を前に「無条件の平和協定締結」を米国に提案した。
「朝鮮停戦協定の固定化から無条件の平和協定締結に変える、朝鮮民主主義人民共和国の米国に対する提案」を発表した。(原文サイトは以下)
http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2015-10-18-0012
声明は、「国連第70回総会で、朝鮮休戦協定を平和協定に交替する事に対する公明正大な立場を再び明らかにした。」として、昨年9月15日から開会された国連総会での、リ・スヨン(李洙?)外相の発言に触れながら次の様に指摘した。
‘対決と緊張激化の悪循環を断つのは、停戦協定を平和協定に変えることを、全ての問題に先行させる事にある’
「小さな偶発的事件が、直ちに一触即発の危機局面に拡がった去る8月の朝鮮半島情勢は、現停戦協定では、これ以上衝突と戦争危機を防ぐ事は出来ないと言うことを、最終的に証明してくれる。我々の平和愛好的立場と堅忍不抜の忍耐性に依って、北南間に辛うじて合意が達成されたが、それがそのまま、維持されたり、履行されるだろうと言う保障はその何処にも無い。」
「合意の当事者である南朝鮮当局には、武力に関する統帥権がない。米国が主導する合同軍事演習も、拒絶することが出来ない立場に置かれている。今一度、更に緊張が激化され、軍事境界線上で衝突が起これば、誰も統制する事が出来ない全面戦へと確定されるであろうことは、火を見るより明らかだ。我々は過去時期、非核化問題を、まず論議しなければならないと言う関係諸国側の主張を考慮し、六者会談で、非核化論議をまずして見る事もしたし、また、核問題と平和保障問題を同時に論議してみる事もしたが、失敗を免れなかったのであり、例え一時、部分的合意が達せられた事があったとしても、その履行には、移ることは出来なかった。最大の主たる原因は、米国の対朝鮮敵対視政策が継続され、その基本表現である大規模合同軍事演習強行と、核打撃手段の南朝鮮への搬入など、軍事的挑発行為が周期的に、あらゆる話し合いの雰囲気を壊し、朝鮮半島情勢の緊張だけを高めているところにある。」と指摘した。
対決と緊張激化の悪循環を断つのは、「停戦協定を平和協定に変えることを、全ての問題に先行させる事にある」として、米国に無条件の平和協定締結をせまった。
●朝鮮の「平和協定の締結提案」を拒否し、60年有余にわたって核兵器に依る脅しを加えて来た米国の敵対視政策は、朝鮮民族の生存権と人間として生きる権利を否定する犯罪行為である。
外務省声明はまた、「戦争状態」の一時的休戦に過ぎない「停戦協定」に、1953年以来一貫して固執し、朝鮮に対する敵対視政策を自国の国家政策にしてしまっている米国を厳しく批判し、「朝鮮休戦協定を平和協定に交替する事」が、朝鮮半島のこれ以上衝突と戦争危機を防ぐ道であると明言した。声明は「朝鮮半島で、現実的な脅威として提起されている戦争勃発の危険を除去し、恒久的な平和的環境を用意しなければならない切迫した要求」から、出発したものだ。
米国は、朝鮮戦争時期から、朝鮮民族に核兵器に依る威嚇を繰り返し、朝鮮半島に不安定な状況を意図的に生み出し、その元凶は自分たちではなく「北の脅威」にあると捏造して来た。自らが作り出した「東アジアの軍事的緊張」を、政治的道具として利用して来た。 朝鮮民族は、広島・長崎に対する米国の核攻撃被害を直接受け、日本民衆と同じ様に多くの死亡者を出した
。軍事施設と軍需工場が集中した広島・長崎では、強制徴用された朝鮮人が多数被爆した。広島で7万人、長崎で2万人以上と指摘されている。
60年を優に越える期間、ヒロシマ・ナガサキの核爆発の恐怖の経験を、日本人と共に共有する朝鮮民族に対する、この米国の仕打ちは、朝鮮民族の生存権と、等しく与えられた人類の普遍的な価値、人間として生きる権利を否
定・冒涜する、恥ずべき知的退廃と精神的腐敗の姿を世界に晒している。
朝鮮政府は、正当にも、朝・米間の「平和協定の締結」が、戦争と軍拡を除去する道であると主張している。
「停戦協定を平和協定に変える問題は、何よりも米国がまず、勇断を下さなければならない問題であり、朝・米間に、まず原則的合意を見なければならない問題だ。」「朝・米間に信頼を醸成し、当面する戦争の根源を除去することが出来れば、核軍備競争も究極的に終息させる事が出来るのであり、平和を強固にして行くことが出来る。」と、外務省声明は米国に迫った。
●10・18朝鮮外務省声明は、1975年、国連総会決議で「国連軍司令部」を解体し、停戦協定を平和協定に取り換える<3390号>議案を議決しているにも拘らず、米国と加盟国に依って無視されてきた事にも触れている。
また、声明は、「平和協定」に対する国連の責任と加盟国の役割についても言及している。米国は、1975年、国連総会決議で「国連軍司令部」を解体し、停戦協定を平和協定に取り換える<3390号>議案を議決しているにも拘らず、それを無視して来た。
「国連も、平和協定締結を積極的に支持・鼓舞する事で、朝鮮半島で一つの成員国(朝鮮民主主義人民共和国)と≪国連軍司令部≫が交戦関係にあると言う、非正常な事態にけりをつける事を、自分たちの持ち分としなければならない。」と厳しく指摘した。
国連は、既に1975年、「国連軍司令部」を解体し、停戦協定を平和協定に取り換える<3390号>議案を、総会決議としている。しかし、米国は、逆に朝鮮に対する<敵対視政策>を60有余年経った現在も継続し、国連決議の履行に対する己の責任を回避し、(それらは、ほとんどが国際法に違反する決議だ)朝鮮に対する制裁と懲罰を、「安全保障理事会決議」として繰り返して来た。他の加盟国もまた、それに同調・追従して来た。
<声明>は、この<非正常な事態>にけりをつける事は、全ての加盟成員の責任であることを指摘したのである。国連第70回総会での、リ・スヨン(李洙?)外相の発言は、その事を指摘しているのだ。
●朝鮮外務省の10.18声明による、「朝鮮停戦協定の固定化から無条件の平和協定締結に変える、朝鮮民主主義人民共和国の米国に対する提案」に対し、「国務省・北朝鮮担当特別代表」 ソン・キムは、「優先順位が間違っている。非核化が先だ」と回答した。
韓国・中央日報は、2015年10月20日(現地時間)、米国務省・北朝鮮担当特別代表 ソン・キムが、上院外交委員会公聴会で、朝鮮が要求する<平和協定締結>議論に関する質問を受け、“その様な議論をする事に関心はない。平和協定締結に先立ち、非核化問題から解決すべきと言う事だ。北との交渉の焦点は核問題でなければならない。北は、重要な段階を飛び越えて、平和協定交渉を提案し、優先順位を間違って捉えている。北が何時か気付くだろうと待っているわけではない。米国は、北が核兵器を追及しながら、同時に安保と繁栄を成就する事は出来ないと言う事を明確にする為、抑止・外交・圧力など、あらゆる手段を動員しているのだ。”と主張したと伝えた。
●「無条件の平和協定締結」提案は、‘検証を前提とした全朝鮮半島の非核化’に向かう唯一の道
ソン・キムは、それこそ米国側が<優先順位を間違えている>ことを、隠蔽している。キムの発言は、朝鮮側に一方的な核の放棄をさせる事を、“非核化”と呼び、“対話を通して達成すべき目標”を“条件”としている。
朝鮮半島の非核化とは、朝鮮一国だけの非核化ではない。全朝鮮半島の非核化である。南朝鮮が、米国の核兵器で覆われ、公然と、朝鮮に対する核先制攻撃を目的とする合同軍事演習が、膨大な核兵器の動員の下で‘日常的に’行われている恐るべき現実こそが、朝鮮半島を、核戦争の危機に晒しているのである。
朝鮮は、この状況を、 <朝鮮停戦協定の固定化から、無条件の平和協定締結に変える>事を
“対話を通して達成”しなければ、一触即発の危機は、解決できないと 提案しているのである。
6か国協議における9.19声明のロードマップとしての2.13合意は、米国によって踏みにじられたが、「全朝鮮半島の非核化は、検証を前提としている。従って米国を初めとする全ての参加国の義務履行も例外なく検証を受ける事になっている」(2008年7月4日朝鮮外務省代弁人談話)はずであった。ソンキムとオバマは、この事実に蓋をしているのだ。(続)
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