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(韓国民衆言論  PRESSIAN 世界ニュース 2014226日付)

 

 日本の特定秘密保護法に、どんな秘密が潜んでいるか 

-韓国の秘密保護法も、虎視眈々と議会通過を狙う-

 

チョン・ジンハン (透明社会の為の情報公開センター所長)

 

 

2007年、韓国国会で廃案となった‘秘密保護と管理に関する法’と、瓜二つの日本の‘特定秘密保護法’

日本社会が、法律案一つで揺れ動いている。去年の年末、日本で、特定秘密保護法を議会に通過させた。特定秘密保護法には、外交と安保など四つの分野で行政機関の長が“特定秘密”を指定し、漏洩した公務員らに最高10年の懲役刑とともに、民間人も処罰する事が出来る内容が含まれている。

この過程で、市民社会を中心に厳しい反発が起こり、昨年123日には全国的に6000名の人間の鎖を作ることもした。日本で政府の政策に対しこの様な反発が起きたのは、極めて異例なことだ。のみならず、学者達も一斉に反対しており、日本の言論でも連日特集報道で、この法案を強力に批判している。

しかし、この法案が2007年、韓国国会に提出された法案と、驚くほど似ている事を知る人は少ない。2007年、国情院(訳注―国家情報院、大統領直属の情報機関。軍事独裁時代はKCIAと称した)が、立法推進をしたが挫折した‘秘密保護と管理に関する法律’(以下、秘密保護法)と言う法があった。この法案と日本の特定秘密保護法は、形式と内容面でほとんど瓜二つだ。

筆者は過去数年にわたって、この法案が国民の知る権利を萎縮させると強く批判して来た。それなら、2007年に韓国の秘密保護法は、どの様に作られ、韓国で立法が挫折したこの法案が、日本で通過した以後、どんな事が発生するのか、予測して見よう。

 

▲日本の安倍政権では、特定の秘密保護法が議会を通過し、韓国にも似たような秘密情報の保護が推進されるとの懸念が台頭している。 ?聯合ニュース

日本安倍政権では、特定秘密保護法案が議会を通過した。韓国でも似た様な秘密情報の保護が推進されると言う懸念が台頭している。(写真出処―ヨンハップニュース)

  ‘耳にかけるイヤリング、鼻にかける鼻ピアス式の(どうにでも解釈できると言う意味の)’条項

参与政府(訳注―ノム・ヒョン―盧 武鉉大統領の政府の時期、政府は、四大法案(情報公開法、記録物管理法、大統領記録物法、秘密保護法)の制定、また改定を推進していた。ノム・ヒョン(盧 武鉉)前大統領の記録管理革新推進の為に作られた諸法案だ。

ところで、他の諸法案は、青瓦台や安全行政府(政府の組織)を中心に作られたが、秘密保護法は国家情報院が主導し法案を作った。当初の法律案として制定されていなかった秘密制度を整備し、体系的な指定、また解除を盛る目的で推進された。

政府内で秘密保護法が立法予告された時、実際に多くの専門家達は、法案を肯定的に評価した。まずその間、大統領令である‘保安業務規定’として秘密制度を管理してみると、国会の管理監督を受けなかったものを、法として格上げさせたと言う点と、無分別に濫用された対外秘制度を廃止したと言う点が高く評価を受けた。

実際公共機関では、自分達に少しでも不利な材料を生産すれば、‘対外秘’と言う名目で非公開を乱発した。外交部などに情報公開請求をして見れば、映画‘太極旗を翻して(‘ブラザーフッド’)’の広報資料なども、堂々と対外秘として指定されたのを知る事が出来る。さらに秘密の範囲を、通商・科学・技術開発など重要な国家利益と関連された事項まで拡大し、秘密制度を拡大改編しようとする諸条項が含まれた。

しかし‘悪魔と言うのは、ディテール(詳細な事柄)が潜んでいる’と言う言葉の様に、実際緻密に分析して見ると、法案の至る所に問題点が潜んでいた。

最も大きい問題点は、処罰条項だった。法律案では、“誰でも国家安全保障、また国家利益を害したり、不正な利益得る目的で秘密を探知したり、収集したものは、7年以下の懲役、または一億ウオン以下の罰金に処する”と言う規定があった。これを他人に漏洩した時には、10年以下の懲役、または二億ウオン以下の罰金に処する事が出来る様にして、未遂犯も処罰出来る様にした。

その条項を見る瞬間、すぐ、‘公益通報者’達(訳者注1990年代、加民主主義社と人のための市民運動の中から生まれてきた言葉→内部の不正を暴く情報提供者)と、‘探査報道’訳者注―韓国で、企業や国家の不正や事件の本質を暴く言論姿勢を指す)をする言論人達を思い出した。前職・CIA要員 エドワード・スノードンの例を取り上げて見よう。

米国が、全世界を査察していると言う衝撃的な内容を暴露する瞬間、秘密保護法で10年以下の懲役を処すこととなり、その内容を報道する言論も、起訴対象となる事となる。当然、国民の知る権利は萎縮する他はない。更に深刻なのは、スノードンを支援しようと接触する数多い人権活動家達も、上の法律を適用されると言う点だ。結局、権力の監視運動をする市民団体活動家、言論人等が、この条項で処罰される可能性が高くなると言う話しとなる。

その上、法律では国情院の権限も高めていたので、特に国情院が秘密管理機関として秘密管理の脆弱(ぜいじゃく)性の補完、秘密現況の把握、また紛失・漏洩などに関する経緯の調査と告発権、また秘密を指定したり、秘密の取扱いが必要な者に対する身元調査が出来る権限まで与えていた。

幸いにも、この法案は参与政府(訳注―盧 武鉉大統領の政府)で、市民社会の反撥によって廃棄された。韓国の市民社会の力を見せ付ける契機となった。

●李明博政権時、再び上程された<秘密保護法>も阻止された

しかし驚くべき事に、国情院は上記の法律をそのまま複写した法案を18代国会に再び提出した。筆者は、国情院の執拗なる事に大きな衝撃を受けた。当時イ・ミョンパク(李明博)時代、‘4大河’、‘狂牛病’など市民社会と政府間に熾烈な争いを繰り広げていたはずで、この法案の問題点まで神経使う暇もなかった。さらには類似の名称を持っている‘通信秘密保護法’の問題点が、浮き彫りになっている時期だけあって、‘秘密保護法’は、関心の対象でなかった。

市民の関心を得ることが出来ないとしても、放置する事は出来ない。上記法案は反人権的である上に、多くの良心勢力に無実の罪を被せることが出来る法案だった。

再び、<ハンギョレ>、<キョンヒャン(京郷)新聞>など進歩的新聞と、KBSの‘サム(争)’と言う番組で、上記法案の問題点を指摘した。実際、法案が通過されれば生じる事を、シナリオで作成し、<キョンヒャン新聞>で公開する事もした。国情院は、KBS側に上記法案の問題点の指摘は、度が過ぎるものだと文書を送ってきた。上記問題提起後、幸いにも市民社会と野党の反対で、法案は常務委員会を通過出来なかった。

  韓国の秘密保護法をベンチマークした、日本の特定秘密保護法
  日本の加速化される右傾化と崩壊する民主主義


しかし、2013年・年末、とんでもない事に、日本でもこれと類似した法案が通過したのだ。日本のTBSなどは、当時韓国で、どの様にこの法案を阻止したのか、筆者とインタビューを進めることもした。日本の事例を見ながら、鳥肌が立つ経験をした。日本の加速化される右傾化、核発電所の放射能流出などを経ながら、日本は民主主義が急激に崩壊している。

今後日本は、良心的な勢力が暴露する問題提起を、自国の利益を侵害する行為と看做(みな)し、処罰する事が可能となった。多くの日本の良心的な活動家と知識人達は、特定秘密保護法の存在を、喉の奥に刺さったとげの様に痛く感じ苦しむであろう。さらに深刻なことは、この問題が日本の問題だけではない。今も全世界は、ウイキリクス、スノードンなど市民社会と国家権力間の熾烈な争いが生じているためだ。全世界が自国の利益の為に、良心的な勢力を弾圧する装置として、こんな法案を通過させる可能性が高くなった。

さらに気がかりな事は、日本はどんな過程で、韓国の秘密保護法をベンチマーク(基準に)したのかどうかだ。韓国の立法化の試みが、日本に影響を及ぼしたのかどうか分からないが、その蓋然性は濃厚に見える。

今後この様なベンチマークが、他の国に移されることはないのか、心配だ。7年の間隔を置いて生まれた、韓・日両国の秘密保護法制定の試みは、全世界の市民社会と良心勢力に、大きい宿題を負わせている。

キョンヒャン(京郷)新聞(20081121日付)が発表した、秘密保護法の適用仮想シナリオ

A新聞のB記者は、韓・中自由貿易協定(FTA)の取材問題で頭を悩ませていた。政府が話し合い過程全体を秘密に指定し、公式発表以外は取材通路が事実上遮られていたからだ。B記者は、この日も深層取材が不足していると言うデスクの指摘を受けた折に、携帯電話が鳴った。よく知っていた市民団体所属のS氏の電話だった。

ソウル郊外の静かなカフェで、S氏は文書を一束手渡した。‘3級秘密’の印が押された文書は、韓・中FTAによって、農水産業従事者達が被る被害を数値化して置いた政府記録だった。

S氏は、“韓・中FTAに対する反対意見を持っていた信念ある公務員から受け取った資料”だとし、“必ず報道してくれ”と語った。

B記者は、新聞社に帰り直ぐに記事を作成し始めた。その時、携帯電話が再び鳴った。国家情報院だった。

国情院関係者はB記者さん、今現行法に違反されていらっしゃいます。文書を返して下さい。”国情院が、B記者の携帯電話を盗聴していたのだ。2009年、改定された‘通信秘密保護法’は、国情院と捜査機関が必要とする場合、携帯電話の盗聴を合法的に出来るようにしていた。

B記者は“国情院が、記者を監視することが出来るのか”と抗議したが、“改定された国情院法によって、国益を害する場合、監視・調査まで可能だ”と言う答えが帰ってきた。続いて国情院関係者は、“‘誰でも、国家安全保障、あるいは国家利益を害したり、不正な利益を得る目的で秘密を探ったり、収集した者は、7年以下の懲役、或いは一億ウオン以下の罰金に処す’と言う秘密保護法281項によって、処罰する事が出来る”と警告した。

B記者は、“国家安保、或いは国家利益を害する目的でなく、報道の為のもの”だと抗弁したが、この関係者は、“文書を報道すれば、韓・中FTAの協議に問題が生じる為、国家利益を害することが出来る”と対応した。

B記者は、瞬間に秘密保護法33条に、‘違法性の部分’規定があると言うことが思い出された。“‘公的な関心事に対して、重大な公共の利益を目的に、やむなく果たされた明白な理由がある時には、処罰されない’と言う規定がないか、”と言った。しかし、“B記者さん、行為がその条項に該当するのかは、裁判所で明らかにしなければならない。また文書を渡した情報提供者は、ひどく処罰を受けるでしょう。”と言う答えが帰ってきた。

市民団体のS氏は、秘密保護法28条1・2項によって、処罰を受ける可能性が大きかった。秘密を‘探り・収集’し、‘他人に漏洩’した為だ。S氏に文書を与えた公務員も、29条、‘業務上の秘密を取り扱う者、或いは取り扱った者が、その業務によって知ることとなったり、占有した秘密を他人に漏洩した時には、10年以下の懲役に処す’と言う条項を、適用される事ができた。

国情院は、2009年に制定された‘国情院法’によって、B記者やS氏を合法的に監視してきたのであり、通信秘密保護法によって、やはり合法的に盗聴していた。今、秘密保護法を根拠として、処罰まで受ける状況が繰り広げられたのだ。

 

(訳 柴野貞夫 201432日)

 

 

<参考・関連記事>

 

論考安倍政権下の日本の情勢@ 「秘密保護法案は、立憲的ファシズム体制を狙う治安立法である」(2013年11月2日)

民衆闘争報道/大阪弁護士会が「秘密保護法案」に反対するデモ行進 (2013年11月12日)
 

世界を見る−世界の新聞/秘密保護法は必ず止めなければならない(韓国・ハンギョレ 2013年11月21日)

資料/特定秘密保護法の制定に反対する刑事法研究者の声明(2013年11月6日)