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民衆闘争報道/論考「朝・米首脳会談の主要議題は何か」  2018328日)

[論考]朝・米首脳会談の主要議題は何か(1)
朝・米首脳会談の主要議題は両国の関係正常化の一括合意であり、その先に「朝鮮半島の非核化」を実現する事にある 

                                         柴野貞夫時事問題研究会

  北南合意文で言う「朝鮮半島の非核化」は、全朝鮮半島とその周辺の非核化であって、「北の非核化」を意味するものではない。
  合意文第4項は、朝米首脳会談の主要議題が、「朝鮮半島の非核化」や「北の非核化」ではなく、“非核化問題の協議、および米朝関係正常化に向けて、米国と虚心坦懐な対話をする”と規定している。
  この事は、朝鮮半島における両国の敵対関係の解消と関係正常化の道筋の中で、双方の核軍縮を含む「朝鮮半島の非核化への道筋」を協議する場である事を示唆している。 

  既存の北の核兵器と弾道ミサイルを問題とする場ではない。

北南関係の進展は、北南民族同士が共同で努力することから始まった

北南関係の進展はピョンチャン冬季五輪を契機に、北南民族同士の和解と、外勢の介入による北南の軍事的緊張を緩和し、朝鮮半島に、平和的環境を作り出すために共同で努力することから始まった。
それを推し進めたのは、五輪開催を前にして、キム・ジョンウン委員長が内外同胞と世界の民衆に呼び掛けた「新年の辞」である。
35日、ピョンヤンを訪問した南朝鮮特使団と、キム・ジョンウン委員長との間で交わされた6項目の合意は、北南関係と、朝米関係の劇的転換の序曲となった。
ムン・ジェインは、北南合意に基づく北南首脳会談の開催予定と共に、特使を米国に派遣し、キム・ジョンウン委員長が、米国と朝鮮との首脳会談開催の意思を持っている事を伝え、トランプが即座に応じ、その時期は、5月に行うとまで明らかにした。
また、北・南は324日、朝・米首脳会談に先立って開かれる「2018南北首脳会談の準備のための南北高位級会談」を、329日、板門店北側地域の統一閣で開く事で合意した。
南朝鮮特使団の訪朝の結果、青瓦台が発表した北南合意・マスコミ発表文は、以下の通りである。(これは、北南共同合意文ではないが、北側の了解を受けた発表文である事は明らかだ。)

北南合意・マスコミ発表文

1.南と北は4月末、板門店(パンムンジョム)の平和の家で、第3次南北首脳会談を開催することにしており、これを向けて具体的実務協議を進めていくことにした。
2.南と北は軍事的緊張緩和と緊密な協議のために、首脳間のHot Lineを設置することにしており、第3次南北首脳会談以前に初通話を実施することにした
3.北側は、韓半島非核化の意志を明確にし、北朝鮮に対する軍事的脅威が解消されて北朝鮮の体制安全が保障されれば、核を保有する理由がないという点を明確にした。
4.北側は、非核化問題の協議,及び米朝関係正常化に向けて米国と虚心坦懐な対話ができるという用意を表明した。
5.対話が持続される間、北側は追加核実験および弾道ミサイル試験発射など戦略挑発を再開することはないことを明確にしたこれと共に、北側は、核兵器はもちろん、在来式兵器を南側に向かって使用しないことを確約した
6.北側は、平昌五輪に向けて造成された南北間の和解と協力の良い雰囲気を保っていくため、南側テコンドー示範団と芸術団の平壌(ピョンヤン)訪問を招待した。(青瓦台提供)


3項・4項・5項は、朝米関係を巡る北側の「非核の意思」を表明している

この発表文は、朝鮮半島の分断によって生まれた、北南の民族同士の敵対的軍事的対立を、平和的環境の構築を通して、北南国家の和解と協力による朝鮮半島の平和体制の実現を目的にしている。しかし、それは同時に、朝鮮半島に膨大な核軍事力と兵力を集中して対北敵対政策に固執し、戦時統帥権を握って国連軍を詐称する米国との交渉が必要である。
発表文は、北・南間の合意事項と、朝・米間に係る問題に対する、朝鮮側の意思と意向を米国に伝える二つの内容からなっている。
1項、2項、6項は、北と南の合意事項であり、3項、4項、5は、朝・米関係を巡る核とミサイル発射に関する北側の意思の表明である。
北南間に係る合意は、北南の関係改善を目指す、首脳会談に向けての事務的事項であるが、朝・米間に係る合意は、核とミサイル発射に対する朝鮮政府の意思と意向である。それを、朝・米双方が、或る程度共有していると思われるのは、トランプが特使に対し、首脳会談に即座に応じたことで推量される。

米国を訪問し、トランプにピョンヤンの意向と意思を伝えた南朝鮮の特使は、3項、4項、5項の内容をどの様に説明し、トランプがどの様にそれを理解したかは分からない。我々は、文として書かれているこの3つの項目から、今回の「合意文」の意味するものを、今日までの朝鮮半島を巡る朝・米の外交交渉の歴史から分析しなければならない。
多くの資本主義言論媒体と、自称「朝鮮問題専門家」達の多くは、この「合意文」を、「北の核放棄を言葉で表明したものに過ぎない」と「批判的な分析」をしている。彼等はまず、問題分析の前提において、根本的な誤りを犯している。
「朝鮮半島の核問題」を、「北(朝鮮)に(一方的な)核放棄をさせる事」だと歪曲していることである。先日、NHKの解説者が、ムン・ジェイン大統領の映像と音声を流しながらが、彼のハングルでの音声である“ハンバンド エ ハクムンジェ(韓半島の核問題)”と言う発言を、“北朝鮮の核放棄”と「翻訳」していたのがそれである。北の自衛的核は、一方的に破棄すべきとする米国や資本主義言論の、常習的意図的「誤訳」である。

合意文第3項で、“北側は、韓半島非核化の意志を明確にし、北朝鮮に対する軍事的脅威が解消されて北朝鮮の体制安全が保障されれば、核を保有する理由がないという点を明確にした。”と言う文言は、1953年、朝鮮戦争停戦協定締結後、その協定を破り、南朝鮮とその周辺地域に大量の核兵器を持ちこみ、現在も、朝鮮に対する核兵器による威嚇を繰り返す米国に対し、やむを得ず自衛的核武装をせざるを得なかった朝鮮が、<核の脅威が解消されれば>核を保有する理由がないと言う意思を示したものである。

朝米首脳会談の目的は「核問題」でなく、朝米関係の正常化にある

合意文第4は、「韓半島の非核化」と言わずに、敢えて「非核化問題の協議」と言う文言を使い、「米朝関係正常化に向けて米国と虚心坦懐に対話する用意がある」と明言した。
この二つの項で、朝鮮は明確な「非核化」の意思を表明し、第5項目で、朝米対話の間、朝鮮の側から、「追加核実験」及び、「弾道ミサイル試験発射など、「戦略挑発」(南朝鮮の表現)を再開する事はしないと、一方的に確約し、米国に明確な非核の意思を伝えたのである。
「米国との関係正常化の先に、韓半島の核問題の解決がある」ことを、朝・米両国が合意をしなければ、トランプの首脳会談の応諾即答はあり得ないと考えられる。
北の一方的な「核放棄」が無ければ、「北との一切の協議に応じない」と言うのが、従来の米国のスタンスであった。しかし、トランプは、従来の米国の対北外交交渉の枠組みを壊し、「無条件の交渉」を選んだと言える。
トランプが、<北・南合意文>を確認し、朝・米首脳会談に応答した事実には、朝鮮からの直接の書簡があったかどうかは、分からないが、トランプの「朝・米正常化」への熱意が読み取れる様だ。
“朝鮮とは、話し合いの為の話し合いは無意味であり、唯、圧力と制裁だけが必要だ”と、トランプの核戦争挑発政策の突撃部隊を自任し、世界に向かって、河野洋平の不肖の息子である河野太郎外務大臣と一緒に、「朝鮮征伐」を行脚して来た安部晋二は、ムン・ジェインとトランプの対朝鮮政策の転換によって、蚊帳の外に放り出された。
米国は323日、米国が主導したグローバル化の矛盾の顕在化に他ならない自国製造業の衰退を、中国を中心とする各国に、貿易制裁を科すことで乗り切ろうと、追加関税を発動した。トランプとの‘100%’の蜜月関係を自慢して来た安倍晋三は、日本がその制裁から除外されるものと信じていたが、その除外リストには、日本の名はなかったことに愕然とした。

トランプは、「偉大な友人―安倍晋三」の願いを悉く拒否し蚊帳の外に置いた

323日、時事通信は伝えている。「安倍晋三首相と話しをすると、微笑んでいる。“こんなに長い間、米国を出し抜く事が出来たとは信じられない”と言う笑みだ。」トランプ米大統領は22日、ホワイトハウスでの会合で安倍首相についてこう語り、対日貿易赤字への不満を露わにした。トランプ氏は、(安倍晋三が)「偉大な男で、私の友人」と前置きし、首相の「笑顔」を解説した。そのうえで、「こう言った時代は、もう終わりだ」と述べ、「互恵的」な関係を求める考えを強調した―と。
トランプは、欧州連合や南朝鮮を、鉄鋼関税制裁から除外したが、‘トランプと100%共にある’日本を除外しなかった。安倍が送り込んだ河野太郎の米国行脚も何の成果もなかった。南朝鮮の保守新聞<中央日報>は、326日の配信で、安倍を揶揄し、次のように伝えている。
“トランプ大統領は鉄鋼輸入制限に関連し、「鉄鋼などの大量輸入は安全保障上の脅威」という理由を挙げた。米国の同盟国である日本の鉄鋼が突然、米国の安保上の脅威になってしまった状況だ。”と。
安倍を冷たく扱うトランプの仕打ちは、鉄鋼貿易制裁にとどまらない。325日、共同通信は、河野太郎が米国高官達に会い、 “北朝鮮の中距離ミサイル放棄と日本人拉致問題解決の約束を、米朝首脳会談の前提条件にしてほしい”と、安倍晋三の意向を受け容れる様、要請したが、次期国務長官に指名されたポンペオ中央情報局(CIA)長官など米国関係者らは「現実性がない」という反応を見せたという。その間、「日本と米国は100%共にする」「歴史上前例がない緊密な日米同盟」などと叫んできた安倍首相は、太郎からその報告を聞いて、言葉を失ったに違いない。


トランプと安倍の対立関係は、米国と朝鮮の利害関係よりも深刻

森友関連の公文書改竄で追い詰められた安倍晋三が、助けを求めて差し伸べた手を冷たく振りほどいたトランプの信条は、訪日時、安倍から受けた「接待ゴルフ」で、米国の「国益」がないがしろにされるものではないと言う極く当たり前のものだ。
<米国第一主義>は、何もトランプの専売特特許ではない。米帝国主義はもともと、「私の友人(安倍晋三)」の為に、一国的利害を犠牲にするなどとは絶対に考えていない。晋三に、米国製兵器をたっぷり買わせる約束を取り付けた後は、朝鮮に対する「制裁と圧力」ではなく、「朝米首脳会談」を、「偉大な男で、私の友人」に対し、如何なる相談もなく決めてしまったのである。あまつさえ、日本に対する貿易制裁まで加えてしまったのである。
帝国主義列強同士の市場を巡る対立は、死活的であり、政治的対立へと発展する。政治的対立の別の表現が「戦争」である。即ち、戦争とは、これ等の政治の延長線上にある。
第一次世界大戦も、第二次世界大戦も、帝国主義列強同士間の市場分割を巡る利害対立が生み出した戦争的結着であった。第二次世界大戦は、資本主義列強が、「労働者国家・ソビエト連邦」を崩壊させるための戦争ではなく、当時の世界資本主義市場の覇権を争う列強間の政治的対立の産物である。

世界の歴史は、資本主義世界市場を巡る各国の、生き残りをかけた熾烈な競争が、市場と資源をめぐる帝国主義的利害の衝突を、戦争的決着に向かわせて来た。
トランプと安倍の帝国主義的市場競争を巡る対立関係は、米国と朝鮮の利害関係よりも、或る意味ではずっと深刻である。
朝鮮半島問題は、巨大な帝国主義世界市場で生き残る日本帝国主義の生存競争にとって、一つの大きな課題ではあるが、全てではない。


朝米間の敵対的状況を一挙に終焉に導く可能性

1962年の「キューバ危機」後のソ連と米国の「平和共存」、1972年、米帝のベトナム侵略戦争敗北後の、ニクソンと毛沢東の首脳会談と国交正常化などは、米国の軍事的・政治的衰退から立ち直る為の外交的駆け引きであった。世界政治の力学は、朝米間の敵対的状況を、一挙に平和的共存に向かわせる可能性を否定しない。世界政治の歴史の教訓と力学は、朝米間の敵対的状況を、一挙に終焉に導く可能性を決して否定していない。
“困った時の北頼み”と、世界から揶揄されてきた安倍晋三は、東北アジアに対する米国の核戦争戦略に「100%の支持」を公言し、朝鮮半島の核戦争危機を煽る事によって、森友/加計疑獄による国政の私物化から国民の目を欺き、日本社会のセフテイーネットを解体させた血税を、米国の軍事産業への貢献と自国の軍事大国化への道に注ぎ込んで来た。

我々は今、安倍政権が、米国の下僕として、「北朝鮮の脅威」を唯一の政策基調に置き、国民を誑(たぶらか)してきた歴史が、大きく音を立てて崩れて行くのを目のあたりにしている。
328日現在、各言論媒体の安倍の支持率調査は、軒並み30パーセント前後に暴落している。東京の新宿と国会前は、「安倍打倒」のデモ隊列で、ぎっしりと埋められ始めた。201710月の、安保法制後の総選挙で、CIAのエージェントなって、民主党を解体して「希望の党」に合流し、安倍軍拡政権の勝利を画策した前原の様な民衆の敵の跋扈を、今度こそ許してはならない。
トランプの米帝国主義が、朝鮮との首脳会談に応じた理由は、安倍や資本主義言論と、自称「朝鮮問題専門家」達が言うような「北朝鮮に対する圧力を高めた結果、北の側から話し合いを求めて来た状況」と言ったものではない。
米国の対北「先制核攻撃態勢」の破たんこそ、朝・米首脳会談に応じ、「対北敵視政策」の終焉を準備せざるを得なかった理由である。

朝鮮による対米軍事的均衡の確立は、米国による「対北敵対政策」の70年を破綻させた

朝鮮は、20171119日、米全域を射程圏内に収める能力と、核弾頭搭載の技術的課題も解決した「火星15号」の発射に成功した。帝国主義に対する朝鮮の「軍事的均衡」を確立した壮挙であった。体制崩壊を狙った70年に亘る「対北敵視政策」の破綻が明らかになった瞬間である。
米国のMD防衛体系では、朝鮮の自衛的弾道ミサイルを防ぐ事は出来ない。今回の「火星15号」試験発射成功によって、米国が肝に命じなければならなくなった明白な事実がある。

朝鮮の、核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイルが、米国本土において100%防ぐ事が出来なければ、米国は朝鮮を先制核攻撃出来ないと言う厳然たる事実の事だ。50%の確率もない、現在の米国のMD防衛体系では、朝鮮の自衛的弾道ミサイルを防ぐ事は出来ない。そのうち朝鮮は、米国のMD防衛体系を超える、更なる武器体系を確立するだろう。
米国とトランプは、朝鮮に対する侵略的核先制攻撃を実行する一つの大きなカードを、失ったのである。1129日の朝鮮による武器体系の完成は、朝鮮半島で、今も大々的に展開される米・韓合同軍事演習の武器レヴェルでは、米国を防ぐ事が出来なくなった事も、暴露した。
韓国銀行(中央銀行)は20177月、朝鮮の2016年の経済成長率が3.9%となり、1999年以来の高水準だったと指摘している。国連安保理を使った米国主導の列強の不当不法な「制裁発動」にも拘らず、朝鮮経済と民生は、力強く前進している。
この様な、米国を取り巻く情勢は、トランプの米国が、朝鮮に対する「核威嚇と制裁圧迫」の70年に亘る「対北敵対政策」から得たものは、何もなかったと自問せざるを得なかった。トランプが、朝米協議に応じたのは、自らの敗北を自覚したからに他ならない。今回の朝米首脳会談を、渡りに船と受け入れた理由である。この船の船頭は、トランプではなく、キム・ジョンイル委員長そのひとである。
次回予
●朝・中首脳会談の意義

参考サイト>

☆ 論考/「社会主義・朝鮮の崩壊を妄想し、67年間に亘って核威嚇を繰り返してきた米帝国主義の対北政策の敗北」(柴野貞夫時事問題研究会  20171210日)
http://vpack.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_jousei_60.html