(論考/シンガポール朝米首脳会談で、何が合意されたか<その2> 2018年6月20日)
[論考A]シンガポール朝米首脳会談で、何が合意されたか<その2>
米国は「核による恐喝と挑発行為」を中断、「新たな朝米関係の樹立」に合意した
朝鮮の「揺るぎない非核化への意思」を確認
柴野貞夫時事問題研究会
▲ シンガポール朝米首脳会談で、談笑する金正恩委員長とトランプ大統領
朝鮮半島の核危機の根源は、米国による対朝鮮敵視政策にあった
シンガポール朝米首脳会談で、トランプは、<CVID>(完全且つ検証可能で、不可逆的な非核化)を持ち出さなかった(と言うよりも、現実の、朝米の力関係から持ち出す事が出来なかった)のは、<CVID>の様な、従来の敵対的朝鮮政策では、「対話」を生み出す事は出来ない事を、トランプは既に分かっていたからだ。
朝鮮は、この様な、「戦勝国による敗戦国に対する要求」を彷彿とさせ、「我々だけに武装解除させようとする、尊厳と自尊心を傷つけ、自主権を侵害する試みは、到底受け入れない」と主張して来た。朝鮮は、この変わらない基本姿勢を、幾度となく主張し、米国の不正な要求に応じなかった。
2009年1月13日朝鮮外務省声明は、「我々が9.19共同声明に同意したのは、非核化を通じた関係改善ではなく、関係正常化を通じた非核化と言う原則的立場から出発したからである」「我々が、核兵器を先に出さなければならないと言う関係が、改善される事が先決だ。」(周知の様に、朝鮮の核放棄は、米国との関係正常化の同時履行と、南朝鮮の米国と南韓の核に対する検証を受けいれる事が条件であったが、米国はそれを拒否し、9.19は崩壊した。)
朝鮮政府は、一貫して、米国の、この「敵対視政策」を非難し、<朝鮮半島の非核化>は、ここからは一歩も前に進まないと警告してきた。
<朝鮮半島の非核化>を巡って、1994年の「朝米ジュネーブ合意」と2000年の「朝米コミユニケ」の破綻から、六者協議における9.19合意の破綻に至るまで、それ(破綻)を生み出した決定的な要因が今、一方の当事者である米国自身の口から語られ始めている。
それは、朝米関係における、米国の対朝鮮敵視政策である。対話の相手に対して、その《崩壊》を公然と主張する「対話」など、この世に存在しない。米国は、元々、核開発途上国に対しては、まともな(対等)の交渉をしたためしがない。リビアに対してそうであり、イランがそうであり、つい昨日までの朝鮮に対してそうである。
これらの国々対しては、戦勝国が敗戦国に対する様に、必ず、<CVID>を飲ませる事を、<対話>の条件として来た。あらゆる核兵器と核施設、核燃料と核開発人材、核とミサイル関連文書を、米国が望むように検証し、そのすべてを国外に搬出、廃棄させ、それと同時に、関係のない軍事施設まで盗み見して、敵対国の身ぐるみを剥ぎ取ると言うものである。
現ボルトン国家安保補佐官が、当時関わったリビアに対しては、ブッシュ政権時代の2004年、“国交正常化・制裁の解除”などの甘言を駆使して、‘核兵器の墓’と呼ばれてきたテネシー州オークリッジ国立研究所に、全ての核、ミサイル関連機器を搬入させ、身ぐるみ剥いだあと、欧州資本主義の軍事組織―NATO軍との共同空爆で、無法な攻撃を加え、CIAが準備した「市民革命軍」によって、カダフィを路上で虐殺した。
「対話」の相手を、世界一の途方もない核軍事力で威嚇・脅迫しながら、その敗北を強要する以外、如何なる条件も認めないなどと言う「対話」など、あるはずがない。米国による、朝鮮の「崩壊」を見込んだ、不正で欺瞞的な、「紙切れ」だけの「合意」は、常に破綻する運命にあったのである。
国連は5大列強の支配下にあって、この米国の傲慢専横な行為を黙認した。それを支持して来た中国政府も、大いに責任がある。
米国は<対朝鮮敵視政策>の破綻を認め、朝鮮の原則的立場を受容
朝鮮は、民族挙げての死に物狂いの抵抗を続け、核大国・米国の喉首を締めあげる決定的な軍事的均衡を成し遂げた。
その結果、国家の安保危機に投げ込まれたトランプは、シンガポール首脳会談で、朝鮮と共存する意思を明確にし、朝鮮との「和解と対話」と言う「真摯な」態度を通して、「朝鮮半島の非核化」を追求する道しかないと悟ったのだ。トランプは、<対朝鮮敵視政策>の破綻を認め、<関係正常化を通じた非核化>と言う、朝鮮の原則的立場を受け容れて、朝米首脳会談に臨んだのである。
もちろんそれは、(米国が朝鮮に対し、70有余年に亘って、核による威嚇を繰り返した報いではあるが)朝鮮の、米国全土を射程に収め、核を搭載した大陸弾道弾開発の成功が、米国の安保体制を根底的に揺るがす事となった現実を回避したいと言う思惑からである事は言うまでもない。
朝鮮外務省・チェ・ソンフィ(崔善姫)次官が、国家安保補佐官ボルトンと、ペンス副大統領の「リビア方式」に言及した発言に対し、“政治的に間抜けなペンスは、自分の相手が誰なのかをはっきり知らずに、無分別な脅迫性発言をする前に、その言葉が招く恐ろしい結果について熟考すべきだ”と罵倒した中で、“自分らが先に対話を請託したにもかかわらず、恰も我々が対座しようと頼んだかのように世論を惑わしている底意が何か?”と、この首脳会談は、米国が朝鮮に請託した事実を暴露している。
朝鮮を<事実上>「核保有国」と認めた米国は、朝鮮の「非核化」を「核軍縮」と捉えている
米国は、朝鮮の既存の核の存在とその運搬手段に直ちに手を付けようとする、叶わぬ思惑よりも、それらが自国の安保にとって脅威とならない範囲で、朝鮮との「平和共存」と「核・ミサイルの軍縮」への道を選んだのである。それは、米国が、核保有国としての朝鮮を事実上容認したと言う事に他ならない。
6月12日の朝米首脳会談の翌日、13日、ポンペオ国務長官は、ソウルのホテルで行われた懇談会で記者の質問に答え、 “『主要な核軍縮』(major nuclear disarmament)の様なものを、我々は2年半で達成できるよう希望する”と答えた事は、朝鮮の「非核化」を、「核軍縮」として事実上捉えているトランプ政権の立場を暗示している。
「核軍縮」とは、「核保有国」同士間の、「相互主義」即ち、核を巡る互いの検証を必要とするものである。朝鮮半島を巡っては、核戦争を呼び起こす核兵器の配置や、広く、核軍事演習も含まれるであろう。それらを検証し互いの対話を通して、戦争の危機を回避しなければならないと言う事だ。
「朝鮮半島の非核化」を、「朝鮮の一方的核放棄」だと、期待を込めて、不正に世論を誤導して来た資本主義言論は、記者会見で、トランプに“<CVID>が何処にも明記されていないではないか?この首脳会談は、北朝鮮に押し切られたのではないか?”と、見当はずれの批判を執拗に繰り返していた。朝米関係の、大きく展開する新しい時代の力関係の変化を、彼等は全く理解できなかった。
後戻りできない、新たな朝米関係の樹立
朝鮮は、南朝鮮や米国からの、何かの見返りも意に解せず、主導的に「非核化」への意思を明らかにする行動を先行させ、トランプの「和解と対話への意思」に、道を開いた。
朝鮮は、朝米首脳会談を前に、以下の様に、米国が<和解と対話>に応ずるなら、《朝鮮半島の完全な非核化》に向かって、破格且つ大胆な方針を打ち出した。
●4月20日の労働党中央委員会第7期3回全員会議で、「経済・核武力建設の並進路線」の終了を宣言し、核実験や大陸間弾道ミサイル試験発射の中断▽北部・プンゲリ(豊渓里)核実験場の廃棄などを約束した。(参照サイト:http://www.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_shinbun_621.html)
●4月27日、 南北首脳が、‘韓半島の平和と繁栄、統一のための板門店宣言’を発表、南と北は、朝鮮半島の恒久的であって強固な平和体制の構築のために、積極的に協力していく。南と北は、完全な非核化を介して、核のない朝鮮半島を実現するという共通の目標を確認した。
●4月30日付労働新聞は、4月20日の労働党中央委員会第7期3回全員会議で決定された、核実験や大陸間弾道ミサイル試験発射の中断▽北部・プンゲリ(豊渓里)核実験場の廃棄などを毀損する、一部トランプ政権の<CVID>主張派を牽制する記事を載せた。(参照サイト:「世界世論の声に、耳を傾けなければならない」 http://www.uriminzokkiri.com/index.php?ptype=igisa2&no=1151836&pagenum=45)
●5月9日、米国の3人のCIAスパイ・キム・ハクソン、トニー・キム、キム・ドンチョルを釈放した。
●5月24日には、実際に、プンゲリ(豊渓里)核実験場爆破を、国際記者が見守る中、断行した。
朝鮮中央通信は、2018年6月13日、朝米両首脳会談の共同声明を解説し、次の様に報じた。
【会談では、新しい朝米関係の樹立と朝鮮半島における恒久的で強固な平和体制の構築に関する問題に対する包括的で深みのある論議が行われた。最高指導者は、トランプ大統領をはじめとする米国側代表団と、このように席を共にしたことを嬉しく思うと述べ、敵対的過去を問わず、対話と協商を通じて現実的な方法で問題を解決しようとする大統領の意志と熱望を高く評価した。
アメリカ合衆国のトランプ大統領は、今回の首脳会談が朝米関係の改善につながるとの確信を表明し、最高指導者が年頭から取った主動的かつ平和愛好的な措置によってわずか数ヶ月前までだけでも、軍事的衝突の危険が極に達していた朝鮮半島と地域に平和と安定の雰囲気が到来することになったと評価した。
最高指導者は、両国間に存在している根深い不信と敵対感から多くの問題が生じたと述べ、朝鮮半島の平和と安定を成し遂げ、非核化を実現するためには両国が相手に対する理解を持って敵視しないということを約束し、それを保証する法的、制度的措置を取らなければならないと述べた。】
共同声明の第一項「1. 朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国は平和と繁栄を願う両国人民の念願に基づいて新たな朝米関係を樹立していくことにした」は、両国の後戻りが出来ない<新しい朝米関係の樹立>を明確に確認した包括的な文言である。
また、声明の他の3項目をどの様に理解すればよいか。米国は、朝鮮の溢れる「善意」に対し、どの様にこれから答えて行くつもりなのか。会談後のトランプの記者会見と、その後の、<米韓合同軍事演習の中止>など、米国政府の行動を通して検証してみよう。
(続く)
<関連サイト>
☆[論考] シンガポール朝米会談で、何が合意されたか<その1>(柴野貞夫時事問題研究会 2018年6月20日)
http://vpack.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_jousei_65.html
☆[論考@] 朝・米首脳会談の主要議題は両国の関係正常化の一括合意であり、その先に「朝鮮半島の非核化」を実現する事にある(1)(柴野貞夫時事問題研究会 2018年3月28日)
http://vpack.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_jousei_62.html
☆[論考A] 朝・米首脳会談の目的は、米国に対して核脅威による「対北敵視政策」を放棄させる事にある(柴野貞夫時事問題研究会 2018年4月13日)
http://vpack.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_jousei_63.html
☆[論考@] 朝米首脳会談における米国の義務は、朝米関係正常化を実現することだ(柴野貞夫時事問題研究会 2018年6月10日)
http://vpack.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_jousei_64.html
☆ 論考/「社会主義・朝鮮の崩壊を妄想し、67年間に亘って核威嚇を繰り返してきた米帝国主義の対北政策の敗北」(柴野貞夫時事問題研究会 2017年12月10日)
http://vpack.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_jousei_60.html
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