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(世界の新聞/韓国・プレシアン 201841日付)
http://www.pressian.com/news/article.html?no=191262


            大阪朝鮮学校補助金裁判の控訴審
             −(大阪高裁)の不当判決について


                                      藤永 壮大阪産業大学教授

わずか数秒で終了した判決宣告

2018320日、大阪高裁は大阪朝鮮学校が大阪府と大阪市を相手に補助金交付の再開などを要求した裁判の控訴審で、朝鮮学校側の請求をすべて棄却する不当判決を宣告した。
裁判が始まった後、裁判長は、「本件控訴をすべて棄却する。控訴費用は控訴人が負担する」と判決を読んでも、理由を一切説明しないまま、同席裁判官二人と一緒に、逃げるように法廷を抜け出したと言う。 かかった時間はわずか数秒に過ぎなかった。
日本の裁判で、判決文だけ読む判決宣告がたびたびあるとはいえ、それでも冷淡であまりにも攻撃的な処置に、傍聴席を埋めた朝鮮学校の学生関係者、ボランティアは逆上した。
法的争点はともかく、この補助金の裁判で - これと並行して進行中の朝鮮高級学校‘高校無償化’適用要求裁判でも―朝鮮学校側が要求するのは、最終的に民族教育に関する権利の認定だ。朝鮮学校側は、第1審と控訴審の審理で日本国憲法の条文等に基づいて、補助金不交付が、朝鮮学校生徒の学習権、民族教育を受ける権利を侵害すると主張してきた。 しかし、控訴審判決で、大阪高裁は補助金不交付に対し、大阪府・大阪市が定めた交付要件を満たす事が出来ず、交付しなかっただけで、朝鮮学校の教育活動自体を規律し、制限したものではないと言い切った。
朝鮮学校に対し、新しい交付要件を追加し、助成制度から排除する差別政策を実施しながら、民族教育を直接規制する措置ではないと,盗人猛々しい名目で出て来たのである。長い間支給されてきた補助金の突然の停止によって、朝鮮学校の経営が困難に直面しても構わないという冷酷な態度であった。

 ▲控訴審判決宣告の日、大阪高裁に入ってくる大阪朝鮮学校関係者、朝鮮学校保護者、弁護士など。

法的規制を超える行政裁量を認めた判決

特に、今回の控訴審判決で、最大の問題として指摘されたのは、地方自治体の法的規制を超える裁量権を認めた点である。
朝鮮学園側弁護団は、大阪府が、朝鮮学校を標的として改悪した補助金交付要綱の内容が、その根拠となった私立学校振興助成法などの法律規制を超えると主張した。 つまり、私立学校振興助成法の趣旨・目的は、数学的、経済的負担を軽くすることで、子供たちの学習権を保障することにあり、補助金交付要綱の改悪(特定の政治団体と一線を??引くこと、政治指導者の肖像画を教室で取り外すことなどの、いわゆる「4要件」を追加)は、学校と特定の政治団体(朝鮮総連)との関係を理由として、交付要件を厳格化したものであり、振興助成法が定めた学校の規制(学校法人の質問・検査実施、入学者数是正命令、予算の変更勧告など)に比べて過度な規制である。 これは、振興助成法の趣旨・目的に反し子供の学習権を侵害しており、裁量権の逸脱、乱用に該当するので、無効であると言うのが、朝鮮学園側弁護団の主張だった。
しかし、大阪高等裁判所は、朝鮮学園は、補助金交付を要求するぐらい、具体的権利や法的地位を持っていないので、補助金交付の要件を定めた大阪府の裁量権行使は、制限されたり禁止されないとし、朝鮮学園側の主張を退けた。
つまり、地方自治体の補助金行政では、法の外の要件を任意に設定しても構わないと、行政の幅広い裁量権を認めるものとして、行政が政治的理由で、学校の教育内容への干渉を容認したものである。  (大阪高等裁判所の論理では、補助金を支給していないだけで、例え、朝鮮学校が財政難に瀕するとしても、学校の教育活動に干渉することがないので、構わないということなのか)。
一方、大阪市の補助金について、朝鮮学園側は
1大阪市の補助金は、本来、独自の制度であるため、大阪府の補助金不交付が、大阪市の補助金不交付に対する理由とならないのであり、
2補助金不交付を決定した背後に、交付要綱を変更するなど、重大な行政手続き違反があると主張して来た。
しかし、事実関係が明々白々なこんな主張も、明瞭でない理由で退けたのだ。
振り返ってみると、第一審判決は、朝鮮学校の子供たちの学習権や民族教育の意義などには一切言及せず、ただ大阪府・大阪市側の主張を追従したものだった。 特に、大阪府要綱に追加された「4要件」は、明らかに朝鮮学校を標的とする政治的意図で設定されたものであることに対しても、第1審の判決では、被告人、大阪府でも主張していない行政の「裁量の範囲内」との判断の下に、「 4要件」の設定を擁護した。
控訴審判決は、行政の裁量権という「魔法の杖」で朝鮮学校に対する差別を正当化する論理を、さらに強化したといえる。 これらの大阪高裁判決の姿勢については、判決当日の夕方の報告集会で、ある弁護士は、第1審では、朝鮮学校側が提示した論点を避けながら、被告(大阪府・大阪市)勝訴という判決を下した、控訴審では、すべての論点を扱いながら、その論点を一つずつ撃破しようとするものであり、その意味で第1審よりも悪質だとした。

 ▲控訴審でも不当判決が宣告された。  

不当判決が意味するもの

ところが、行政裁量の範囲は、「高校無償化」裁判でも主要な争点である。 朝鮮高級学校を「高校無償化」制度適用の指定基準に「適していると認めるに至っていない」などの理由で不指定処分にしたとする文部科学大臣の決定については、文部科学大臣の裁量権を認めず、不指定処分を取り消せと言う原告(朝鮮学園)全面勝訴の判断を下した大阪地裁の判決については、広島地方裁判所と東京地方裁判所は、文部科学大臣による幅広い裁量権を認め、朝鮮学園、朝鮮学校の生徒の請求を棄却する不当判決を下したのだ。  (三つの地域すべて敗訴した側が控訴し、現在高裁で審理中である。)
朝鮮学校の大阪府の助成制度は、1974年度に開始したが、特に1995年度からは、人件費を含めた「教育に関する経常費用的経費」として補助対象が拡大されて行った。(一方、大阪市は、1991年度から市内の朝鮮初中級学校の教育用具整備などの名目で補助金を交付し始める。)大阪府が、「経常費用的経費」として、補助金を交付してきたのは、在日朝鮮人の民族教育を受ける権利を認めるのではなく、朝鮮学校が「日本社会の構成員としての教育」を実施している点に着目したものだった。
当時、大阪府の担当者は、保守勢力の反発で民族教育の意義を正面から認めにくい中で、朝鮮学校の財政支援を実施する論理で知恵を絞って補助金制度を作ったのだ。
このように、日本の国から助成がない状況では、各地方自治体が、その地域の事情に合わせて、朝鮮学校への補助金制度を作っていった。 そういうわけで制度の内容は地域によって差があり、内容も様々である。 朝鮮学校が所在する29ヶ所の都道府県すべてが、1997年までに補助金を支給し始めたが、「高校無償化」制度をめぐり、日本政府が朝鮮高級学校に対する差別的な姿勢を見せ、特に文部科学省が2016329日、朝鮮学校に補助金を交付してきた都道府県知事の前に、事実上の再検討を要求する通知を送付して以降、2016年度補助金交付は、13カ所の都道府県で減少した。 地方自治体の朝鮮学校助成制度が危機に直面する事となるのは、朝鮮学校の財政を圧迫する次元にとどまらず、民族教育それ自体の意義を完全に否定するものとして、決して放置できない問題である。

「勝利のその日まで」

一方、判決報告集会では、大阪朝鮮学園理事長、朝鮮学校の母、在校生、卒業生、教員などの当事者はもちろん、弁護団と日本人支援者も、一様に、不当判決に屈することなく、最後まで戦っていく決意を固めた。 また、韓国から「<ウリハッキョ>と子供たちを守る市民の会」のソン・ミフイ共同代表が参加し、力強く連帯の意思を明らかにした。
実は、判決に先立つ312日、大阪の朝鮮学校支援運動の中心的な役割を担ってきた「城北ハッキョを支える会」の代表である大村淳先生がお亡くなりになられたために、関係者は大きな悲しみの中で、控訴審判決を迎えた。 当日の報告集会は、参加者全員が、補助金の裁判第一審の不当判決を契機に作られた歌「勝利のその日まで」を歌って仕上げとした。皆が、大村代表の霊前に、まさに「勝利の日まで」継続して、戦っていく決意を新たにした。

▲判決見集会では、朝鮮学校オモニ会会長達が、最後まで戦っていく決意を明らかにした。  

                                              (訳 柴野貞夫 201843日)

<参考サイト>

☆365 ホン・ギルドン、大阪府・大阪市を訴える (韓国・プレシアン 2012年12月2日付)

http://vpack.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_shinbun_365.html
☆369 朝鮮学校差別は国際社会の笑い草 (韓国・統一ニュース 2012年12月30日付)

http://vpack.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_shinbun_369.html
☆373 在日朝鮮人の人権を無視した安倍新政権 (韓国・プレシアン 2013年1月9日付)
http://vpack.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_shinbun_373.html
☆397 朝鮮学校は依然として日帝時代、同化と差別の歴史 (韓国・プレシアン2013年7月23日付)
http://vpack.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_shinbun_397.html
☆398 朝鮮学校問題は、日本が作った日本が解決する問題 (韓国・プレシアン2013年7月31日付)
http://vpack.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_shinbun_398.html
☆400 日本の右翼化、犠牲になる朝鮮学校 (韓国・プレシアン2013年8月6日付)
http://vpack.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_shinbun_400.html
☆451 朝鮮学校の「無償化制度」除外は差別である (韓国・ハンギョレ 2014年8月26日付)
http://www.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_shinbun_451.html
☆民衆闘争報道/朝鮮学校への攻撃を許さない 328集会」(2010年3月28日)
http://www.shibano-jijiken.com/NIHON%20O%20MIRU%20JIJITOKUSHU%2031.html
☆民衆闘争報道/朝鮮学校への高校無償化適用せよ、扇町公園に2600名 2013年3月24日)
http://www.shibano-jijiken.com/nihon_o_miru_jijitokusyu_85.html
☆[論考]/大阪高裁は民族教育を受ける権利を侵害した事実も断罪した(2014年7月15日)
http://www.shibano-jijiken.com/nihon_o_miru_jijitokusyu_110.html
☆[論考]/「高校無償化から朝鮮学校除外は、<在特>と同罪ではないのか」(2014年12月18日)
http://www.shibano-jijiken.com/nihon_o_miru_jijitokusyu_112.html