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(論考/シンガポール朝米首脳会談で、何が合意されたか<その3> 201875日)

[論考]シンガポール朝米首脳会談で、何が合意されたか<その3>
朝鮮半島非核化に対する朝米首脳合意の核心は、相互の核攻撃の脅威を取り除くため、朝米が対等に取るべき責任と役割を明確にした事にある

●「朝鮮半島の非核化」とは、一方的な「朝鮮(北)の非核化」でなく、朝鮮半島に核の脅威を生み出して来た張本人である米国の「非核化」も、同時に義務付けている。
●朝米の「非核化協議」とは、核保有国同士の、同時行動・相互主義に基づく、段階的な「非核化」に向かう「核軍縮」交渉のことである。


資料写真 <統一ニュース>

「朝鮮半島非核化」とは、朝鮮にとっては米国による核戦争の要因を取り除く事であり、米国にとっては朝鮮の核弾道ミサイルによる米本土攻撃を回避する事である

612日、朝鮮半島と、極東アジアの冷戦構造を揺るがす歴史的・社会的大地震となった朝米首脳会談が終わって半月が経過した。
朝米双方は、現在、今回の会談で討議された問題と共同声明を履行していくための実践的措置について、ポンペオ国務長官のピョンヤン訪問(76日)を含む実務協議を開始している。
両首脳によって確約された三つの原則、即ち、@新たな朝米関係の確立、A朝鮮半島の恒久的であり、強固な平和体制の構築、B朝鮮半島の完全な非核化に向けた努力。―について、翌613日、朝鮮中央通信は、次の様に解説している。
@  “朝鮮半島の平和と安定を成し遂げ、非核化を実現するためには両国が相手に対する理解を持って敵視しないということを約束し、それを保証する法的、制度的措置を取らなければならない。”
金正恩委員長は、敵対的過去を問わず、対話と協商を通じて現実的な方法で問題を解決しようとする大統領の意志と熱望を高く評価した。
トランプ大統領は、金正恩委員長が、年頭から取った主動的かつ平和愛好的な措置によってわずか数ヶ月前までだけでも、軍事的衝突の危険が極に達していた朝鮮半島と地域に平和と安定の雰囲気が到来することになったと評価した。
金正恩委員長は、両国間に存在している根深い不信と敵対感から多くの問題が生じたと述べ、朝鮮半島の平和と安定を成し遂げ、非核化を実現するためには両国が相手に対する理解を持って敵視しないということを約束し、それを保証する法的、制度的措置を取らなければならないと述べた。
A  朝鮮半島における恒久的で強固な平和体制を構築のため、朝米間に善意の対話が行われる間、相手を敵視する軍事行動を中止し、朝鮮に対する安全保障を提供する。関係改善が進むことに合わせて対朝鮮制裁を解除する。
金正恩委員長は、朝鮮半島における恒久的で強固な平和体制を構築するのが地域と世界の平和と安全保障に重大な意義を持つと述べ、差し当たり相手を刺激して敵視する軍事行動を中止する勇断から下すべきだと語った。
大統領はこれに理解を表し、朝米間に善意の対話が行われる間、朝鮮側が挑発と見なす米国・南朝鮮合同軍事演習を中止し、朝鮮民主主義人民共和国に対する安全保証を提供し、対話と協商を通じた関係改善が進むことに合わせて、対朝鮮制裁を解除することができるとの意向を表明した。
B  朝米両首脳は、朝鮮半島の平和と安定、朝鮮半島の非核化を進める段階で段階別、同時行動原則を順守するのが重要であることについて認識を共にした。
金正恩委員長は、米国側が朝米関係改善のための真の信頼構築措置を講じて行くなら、我々も引き続き、それ相応の次の段階の追加的な善意の措置を講じて行く事が出来るとの立場を明かにした。
朝米両首脳は、朝鮮半島の平和と安定、朝鮮半島の非核化を進める段階で段階別、同時行動原則を順守するのが重要であることについて認識を共にした。
朝米双方が早い時日内に、今回の会談で討議された問題と共同声明を履行していくための実践的措置を積極的に講じていくことについて述べた。
簡潔に言えば、
@
   敵対関係を、和解と対話による関係へ構築する。
A  (善意の対話が行われる間)相手を敵視する軍事行動を中止する。
B   朝鮮半島の非核化は、段階別、同時行動原則を順守する―と言うものである。

米国の「非核化」も同時に義務付けている

ここから明らかになった事は、朝鮮半島の「非核化」とは、一方的な「朝鮮(北)の非核化」でなく、朝鮮半島に核の脅威を生み出して来た張本人である米国の「非核化」も、同時に義務付けていると言うことであり、朝米の「非核化協議」とは、核保有国同士の、同時行動・相互主義に基づく、段階的な「非核化」に向かう「核軍縮」交渉である事を示唆している。
朝鮮は一貫して、「核の威嚇が無ければ、核を保有する如何なる理由も無い」と言う立場を鮮明にして来た。朝鮮が、米国による核の脅威を放置したまま、一方的な「核の放棄」を容認しない理由がここにある。
資本主義言論や、トランプ政権内の「軍産共同体」の影響下にあるグループ(ボルトンなど)が主張する、一方的な「北の核放棄―武装解除」(cvid)が、朝米首脳会談と「共同声明」で話題にもならず、否定された理由はここにある。
首脳会談が合意した今後の「実務協議」が、一方的な「北の非核化の為のロードマップ」であるかのような資本主義言論の主張や分析が、事実を歪曲し、世論を誤導するものであることは明らかである。

朝鮮半島にだけ核と核資産を配備・備蓄しないことが「朝鮮半島の非核化」ではない

「朝鮮半島の完全な非核化」とは、朝・米が共に果たすべき「双務的な関係の中での同時行動」」である。米国によって、朝鮮半島とその周辺のみならず、極東アジアで展開されてきた膨大な核戦争資産と戦争計画を放置したまま、「北の核放棄」を主張するのは、元の木阿弥である。また、朝鮮半島にだけ、核と核資産を配備・備蓄しないのが「朝鮮の非核化」ではない。
在日米軍基地と沖縄に配備された核攻撃態勢、各種攻撃ミサイルや戦略爆撃機による核戦争準備を考慮すれば、グアムから日本列島を包含する米国の「非核化」こそが、「朝鮮半島の非核化」の核心であると言って間違いはない。「朝鮮半島の非核化」を、「朝鮮半島」に限定する事は、在日米軍・沖縄と、グアム米軍基地からの北に対する核攻撃を考えれば、それは無意味な主張である。
首脳会談で、米国が、「朝米間に善意の対話が行われる間、朝鮮側が挑発と見なす米国・南朝鮮合同軍事演習を中止」する事を決定したのは、朝鮮側が、この間長期にわたって、ミサイルの試射と核実験を自制し、プンゲリ(豊渓里)核実験場廃棄を、米国の行動如何にかかわらず踏み切った事に対する、米国側の「非核化」への意思表示である。
トランプは、首脳会談後の、1時間以上に亘る長時間の、内外記者会見で、朝米首脳会談で何が合意されたかについて、「共同声明」の文言に込められた背後の遣り取りを少し脚色しながら、しかし正直に答えている。

トランプの記者会見は、朝鮮に対する米国の確固たる信頼関係を明らかにするものであった

トランプ大統領は12日の歴史的な米朝首脳会談後、単独での記者会見に臨んだ。このシンガポールでの会見は、大統領就任以来の15カ月間で最も長い65分間に及んだ。(ユーチューブによる、同時通訳の訳文による。掲載順序は前後するが。)
@  会見冒頭、トランプは、朝米の敵対関係を、和解と対話による関係へ構築する、新たな朝米関係について次のように述べた。
●“金正恩委員長との会談は、最初の1秒で、うまくいった。それまでに、数か月前から土台があった。取引したい人がいるから、私は会う。私のやり方だ。朝鮮は、この7か月間、核実験も、ミサイル発射もしなかった。署名した文章には入っていないが、核実験場、ミサイルエンジン試験場の破壊予定も、合意した。満足している。”(記者の、朝鮮の人権問題に何故触れなかったかへの質問に対し、)“金正恩委員長は、正直で、素直で、生産的であり、スマートで優れた交渉者である。”と切り返した。金正恩委員長に対する、最大限の信頼を表現した。
●トランプは、“3人の抑留米国人を釈放してくれた。”と高く評価した。また、金委員長が、“ピョンチャンオリンピックのチケットを売って、その成功に力を貸した。”と言及した。
●“完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)はどこに行ったのか”という資本主義言論の記者団の執拗な追及にも、“(金委員長を)本当に信頼する”、“信頼できなければ署名しなかっただろう”、“金委員長の(核廃棄への)意志を確認した”と繰り返し強調した。

トランプは、“北は非核化への揺るぎない決意を持っている。完全な非核化へのコミットメントを得た”と、朝鮮の「非核化」への意思を全面的に評価した。朝米間の相互信頼を示す極めて具体的な表現である。
A(善意の対話が行われる間)相手を敵視する軍事行動を中止する点に関し、次の様に述べた。
●“我々は、戦争ゲーム(トランプは、米韓軍事演習を、この様に表現した)に多くの金を費やしてきた。在韓する米軍兵士は、35000人に達する。金を節約しなければならない。”
“グアムから6時間半もかけて(爆撃機などが)飛んでくるが、訓練が終わった後は、また長い時間をかけてグアムに戻る。それだけでも巨額の費用がかかる。”
“すぐ隣の国でこのようなこと(軍事演習)をやれば、あまりに挑発的と考えるのは当然だ。”
“米韓軍事演習は、<挑発的>である。ソウル首都圏の2000万の人々にとっても危険に晒す。朝鮮のあの美しい海岸線に、砲弾を撃ち込みたくない。この海岸に、リゾートを作ったらどうかと、キム委員長と話し合った。”

(訳注―恐らく、現在建設中の、元山葛麻(ウォンサンカルマ)海岸観光地区の建設が、朝米首脳会談で話題に上がったのではないか。)
●合同演習の中止に対し、“国民を抑圧する政権のリーダー、北の独裁者、残忍な指導者を、信頼していいのか”と言う資本主義言論の記者たちの悪意ある質問に対し、トランプは“大きな力を持った人物に会うことによって、多くの米国民を救う事になる。米国民を、核の脅威から救う事になる。 2000年にクリントンは、平壌に来ることを拒否した”と切り返した。
“多くの米国民を、核の脅威から救う事になる”と言うトランプの発言は、朝米首脳会談に臨んだトランプと米国の立場を象徴する核心である。
昨年、1129日、米全域を射程圏内に収める能力と、核弾頭搭載の技術的課題も確立した「火星15号」試験発射に成功した朝鮮は、米国との間に、<軍事的均衡>を成し遂げた。米国が、朝鮮を一方的に、‘火の海’に出来なくなった瞬間である。米国の「安保体制」が音を立てて崩壊した。トランプは、朝鮮半島と極東における核抑圧戦略を、大きく見直さざるを得なくなったのだ。
B 朝鮮半島の非核化は、段階別、同時行動原則を順守する―と言う合意点に関して、トランプは次の様に記者会見で明らかにした。
記者会見で、朝鮮との合意にはCVIDがないと、悪意を込めた記者たちの質問に、トランプは、“信頼できなければ署名しなかっただろう。非核化は時間がかかるが、機械的・物理的・科学的に可能な限り速く進めるだろう。後戻りはできないだろうと判断した場合は、制裁を解除することもあり得る”と応じた。
又、“20%の真実があれば(20%の非核化)があれば、それを不可逆ポイントとして、「非核化措置」と考えると表明した。「朝鮮半島の完全な非核化」に対するトランプの基本的考えが、ここに込められている。核保有国である朝鮮の、全面的核放棄など、二国間で解決できない事は、百も承知なのだ。トランプは、“10年〜15年前までに、この様な事が行なわれていれば、もっと良かった”と付け加えた。
米CNNテレビ(電子版)は25日、ポンペオ国務長官が24日の電話インタビューで、北朝鮮の非核化に向けた交渉に「期限を設けるつもりはない」と述べたと報じた真意は、この様なトランプの「非核化」に対する考えに由来するのである。
米国にとって、「北の米本土打撃能力の除去」こそ、「朝鮮半島の完全な非核化」の核心であり、朝鮮にとっては、米国による「核の恫喝と脅威」のみならず、朝鮮半島における核戦争が除去される事こそが、「完全な非核化」の核心である。
朝米両国は、76日から行われる、北米高位級後続交渉で、朝鮮半島の非核化のための具体的なロードマップを作成していくだろう。 その最初の段階の措置は、終戦宣言になるだろう。 停戦協定締結65年になる727日に南北アメリカ3者首脳会談を開催し、終戦を宣言する可能性が高まった。
終戦宣言の採択で、朝米間に、敵対行為をしなければならない理由が消滅される。8月から、朝鮮半島の非核化のための同時行動が始まる。 米国は韓米軍事演習を中止し、北朝鮮はミサイルエンジン試験場を閉鎖する措置をとるだろう。
その成果に基づいて、北朝鮮と米国は2次、3次首脳会談を開催し、朝鮮半島の非核化と平和のための新しい道を歩み始めるに違いない。(続く)

<関連サイト>

 

☆[論考A]シンガポール朝米首脳会談で、何が合意されたか<その2>米国は「核による恐喝と挑発行為」を中断、「新たな朝米関係の樹立」に合意した
http://vpack.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_jousei_66.html

☆[論考@] シンガポール朝米会談で、何が合意されたか<その1>(柴野貞夫時事問題研究会 2018年6月20日)

http://vpack.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_jousei_65.html

[論考@] 朝・米首脳会談の主要議題は両国の関係正常化の一括合意であり、その先に「朝鮮半島の非核化」を実現する事にある(1)(柴野貞夫時事問題研究会 2018年3月28日)
http://vpack.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_jousei_62.html

[論考A] 朝・米首脳会談の目的は、米国に対して核脅威による「対北敵視政策」を放棄させる事にある(柴野貞夫時事問題研究会 2018年4月13日)
http://vpack.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_jousei_63.html

☆[論考@] 朝米首脳会談における米国の義務は、朝米関係正常化を実現することだ(柴野貞夫時事問題研究会 2018年6月10日)
http://vpack.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_jousei_64.html

☆ 論考/「社会主義・朝鮮の崩壊を妄想し、67年間に亘って核威嚇を繰り返してきた米帝国主義の対北政策の敗北」(柴野貞夫時事問題研究会  20171210日)
http://vpack.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_jousei_60.html